祖父と孫の中医学物語 第十五話 まさかの解毒役? 半夏と生姜の知られざる関係

中医学物語

ある日、指月は古書をめくっているうちに、生姜の効用について書かれた一節を見つけた。

そこには、次のように記されていた。

 一、半夏を調整し、その毒を解す
 二、大棗と組み合わせて腸を養う
 三、経を温め、表の邪風を散じる
 四、気を補い、胃逆による嘔吐を止める

「なるほど……生姜と大棗の組み合わせは脾胃を調えるもの。中焦を和らげ、気血の生化を助ける。これは知ってる。それに、朝の山で風寒の邪を受けたとき、体が重くなり、鼻水が止まらなかった。でも、生姜を噛んだらすぐに楽になった。これも体験済み。でも、“生姜は半夏の毒を解す”って……これは一体どういうことなんだろう?」

疑問に思った指月は、祖父に尋ねた。

祖父は、いつものように得意げな笑みを浮かべると、くるりと身を翻して茅葺きの家を出ていった。

家の外には、半夏の群生が広がっていた。

祖父はその中から一枚の葉を摘み取り、家の中へと戻ってきた。

「指月、これは何か分かるかい?」

「もちろんです。半夏ですよね? 外にいっぱい生えてるじゃないですか」

「ふふ、じゃあ、半夏を味わったことはあるか?」

「……ないですけど」

祖父は、摘んだ半夏の葉から米粒ほどの小さなかけらを一片ちぎり、指月の手にそっと乗せた。

「これを口に入れてみなさい」

「えー! 外にはあんなにたくさんあるのに、こんなちょっとだけですか? 歯の隙間にも届かないですよ!」

「じゃあ、歯の隙間がいっぱいになったら、またあげよう」

祖父は明らかに笑いをこらえていたが、指月は深く考えずに、それをそのまま口へ放り込んだ。

嚙んで飲み込んだ次の瞬間――

「うわっ、なんだこれ! 喉が……喉がナイフで刺されたみたいに痛いっ!」

指月は声にならない叫びを上げながら、喉を押さえて飛び跳ねた。

「おや? さっきは“歯の隙間にも足りない”って言ってたね? もっと欲しいか?」

祖父は涼しい顔でからかった。

指月は焦って喋ろうとするが、喉が痛くて声が出なかった。

「あ…ああっ…」と言葉にならず、まるで熱い鍋の上に乗せられた蟻のように落ち着かない様子だった。

次の瞬間、指月の脳裏に、以前読んだ薬書の内容が浮かび上がってきた。

(そうだ! 生姜! 生姜が半夏の毒を解すって書いてあったじゃないか!)

指月はすぐに台所へ走ると、皮も剥かず、生姜を手づかみで口に入れ、がりがりと噛み始めた。

飲み込むと、口から喉、そして胃へと、熱くてピリピリとした感覚が流れた。

やがて、針で刺すようだった喉の痛みが引いていき、ようやく声が出るようになった。

「はあ……なるほど。だから薬書には“生半夏には生姜で制す”って書いてあったんですね。昔は“戟喉(げきこう)”って何のことかと思ってたけど、今日で分かりました。これは本当に“矛で刺すような痛み”のことだったんですね。もう二度と、気安く味見なんかしません……声が出なくなったら、ほんと困りますから」

祖父は宋代の洪邁(こうまい)による随筆集『夷堅志』を持ってくると、指月にある逸話を読み聞かせてくれた。


「楊立」という男がいた。

あるとき、彼の喉が腫れだした。

潰瘍ができ、声も出なくなり、口からは膿や血が流れていた。

名医たちが何人も治療を試みたが、誰も治すことができなかった。

そこへ、「楊吉老」という医者がやってきた。

彼は病状を診ると、楊立に普段の食生活を尋ねた。

すると楊立は、日頃から“しゃこ(=鷓鴣)”という鳥を好んでよく食べていたという。

それを聞いた楊吉老は、こう言った。

「まず生姜を一斤食べなさい。それから薬を飲むとよい」

そのとき周囲の者は首を傾げた。

「こんなに喉が腫れて膿んでいるのに、熱性のある生姜を食べさせるなんて、火に油を注ぐようなものじゃないのか?」

しかし、名声が高い楊吉老に、誰も意見を言えませんでした。

楊立は言われるままに、生姜を少しずつかじりはじめた。

すると、驚いたことに、痛みが増すどころか、どんどん楽になっていったのだ。

半斤を食べ終える頃には痛みがなくなり、一斤食べ終えたときには膿も血も止まり、声も出るようになっていた。

楊立は驚き、尋ねた。

「なぜ、薬でも治らなかったのに、生姜だけで治ったのですか?」

楊吉老は笑って答えた。

「君は、これからはしゃこを控えることだよ。しゃこは半夏の根を好んで食べる。君はしゃこを好んで食べていた。つまり、半夏の毒が間接的に喉に蓄積され、病を引き起こしたのだ。生姜は半夏の毒を解するから、君の病はたちどころに治ったのだよ」

この話を聞いた者たちは皆、目から鱗が落ちた。

「まさか、慢性的な半夏の毒が原因だったとは……」

原因を正しく見抜けなければ、いくら治療しても根本からは治らない。

まさに“弁証”の真髄である。


指月はそれを聞くと、大きな声で「素晴らしい!」と叫んだ。

「この生姜が半夏の毒を解くなんて、すぐにノートに書き留めなきゃ!」

そう言いながら、「生姜は半夏の毒を解す」と、ノートにしっかり記録した。


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