
中医学には中医学特有の思考法があります
- 象思惟
- 系統思惟
- 変易思惟
前回は、中医学における独特の思考法である「象思惟」について学びました。
今回は、第二の思考法、「系統思惟」です。
系統思惟とは
系統思惟とは、
ある対象を系統として捉え、その構成要素、要素間の関係、さらには系統全体と外部環境との相互関係や相互作用を研究し、総合的に対象を理解しようとする思考方法です。
はい、少し難しいですね……汗。
系統思惟と一般システム論
「一般システム論」という学問をご存じでしょうか?
一般システム論とは、システムに共通する法則や性質を探究し、「システムを構成する要素同士のつながりや相互作用に注目し、そこからシステム全体の振る舞いを洞察する」という学問です。
この考え方は、スポーツチームにたとえると分かりやすいです。
システムを「チーム」、要素を「選手」として考えてみましょう。
すると、「チームを構成する選手たちのつながりと相互作用に注目し、その上でチーム全体のパフォーマンスを分析する」と言い換えることができます。
系統思惟の定義とほぼ一致しており、より直感的に理解できますね。
系統思惟は、「人体」を「チーム」とみたてて研究とする思考法なのです。
「系」と「統」の意味
「系統」の意味を分解してみましょう。
- 「系」 は「連なり」を意味します。
- 「統」 は「まとまり」を意味します。
再びスポーツチームを例に挙げます。
チームにはスポンサーがいて、監督がいて、選手がいます。
これは「スポンサー→監督→選手」という連なり(系)です。
そして、スポンサー・監督・選手が一体となって、一つのチームとしてまとまって(統)機能しています。
このように「系」と「統」が一体となった概念が「系統」です。
スポーツチームは、「系」と「統」が組み合わさった「系統」によって機能しているのです。
このイメージがつかめれば、「系統思惟」も理解しやすくなります。
人体も、「系」と「統」が合わさった「系統」により機能しているからです。
中医学における系統思惟
それでは、中医学における系統をみていきましょう。
《周易》という古典で、最初に系統思惟が提唱されました。
《素問・天元紀大論》には「太虚寥廓,肇基化元,万物資始,五運終天,布气真霊,総統坤元・・・生生化化,品物咸章(太虚は廖廓、肇基化元にて、万物資りて始り、五運は終天にして、気を真霊に布き、坤元を総統し・・・生生化化し、品物咸く章かなり)」とあります。
これは、「すべてのものは、太虚という一つの気から発生して、分化したものである。だから、普遍的な繋がりを持っている。繋がりを持ちながら、宇宙というシステムを機能させている」という意味です。
「万物は太虚から発生し、分化していく」というのは「系」のことです。
それらが「普遍的な繋がりを持ちながら、宇宙というシステムを機能させている」というのは「統」のことです。
このように、世界は「系統」で成り立っていることを記しています。

みんな同じことを言っています
世界が系統によって成り立っているという考えは、表現は違えど、いろいろなところで見られます。
道家の《老子・四十二章》には「道は一を生み、一は二を生み、二は三を生み、三は万物を生み出す」とあります。
一方、儒家の《易経・系辞上》には「易には太極があり、これが二儀を生み出し、二儀が四象を生み、四象が八卦を生み出す」とあります。
また、陰陽家は「気は陰陽の二つの気に分かれ、陰陽の気は五行の気を生み、五行の気は万物を生み出す」と説いています。
これらの思想はいずれも、「すべては一つの根源から分化し、普遍的な繋がりを持って宇宙というシステムを機能させている」とする「系統」の概念を示しています。
世界の本源性、統一性、規則性
これら系統の概念は、世界が持つ3つの性質あらわしてくれます。
- 本源性:「どれだけ分化してもその根源が一つであるということは、万物は本質的に同じものである」という自然界における万物の起源
- 統一性:「同じ根源から発生して、分化したものであるから、普遍的な繋がりを持っている」という相互関連と一体感
- 規則性:「根源から万物が発生し分化する」という、客観的な物事の発展プロセス
人間も根源から発生し、分化して生まれた存在です。
人間が持つ人体という世界にも本源性、統一性、規則性があります。
世界を理解するには、「系統」や3つの本質を理解することが必要です。
同じように、人間という世界を理解する上でも、「系統」や3つの本質を理解することは必要不可欠なのです。

補足
太虚寥廓,肇基化元,万物資始,五運終天,布气真霊,総統坤元・・・生生化化,品物咸章の意味
「太虚寥廓(たいきょりょうかく)」
「太虚」は虚空を意味し、全宇宙を含みます。太虚には元気が満ちており、その集散と変化により万物の生滅が生じます。「寥廓」は宇宙が広大無辺であることを示しています。
「肇基化元(ちょうきかげん)」
「肇」は始まり、初めという意味で、基礎を築くことを意味します。「化」は生成を意味し、「元」は根本を意味します。「太虚寥廓,肇基化元」とは、万物の変化の根本が広大無辺な太空にあることを意味します。
「万物資始(ばんぶつしし)」
すべての天地万物の生成が太空に依存していることを示しています。
「五運終天(ごうんしゅうてん)」
五行の気(風、火、湿、燥、寒)が天地の間を循環し、止まることなく運行していることを意味します。
「布気真霊(ふきしんれい)」
気の循環と変換が正常に行われることで、万物の生成と変化が生まれることを意味します。
「総統坤元(そうとうこんげん)」
地の気が上昇して天の気となり、上昇しきると下降します。天の気が下降して地の気となり、下降しきると再び上昇します。天地の気は絶え間なく流転し、交わり調和して中気を形成します。中気は万物を生成し、また消滅させます。このような地や自然の力が、全体として統率されていることを意味します。
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