昔々、都へ科挙(かきょ)の試験を受けに向かう人々の中に、一人の年配の学生がいました。
彼は若いころから何度も試験を受けてきましたが、合格には一度も恵まれませんでした。
それでもあきらめることなく、五十歳を過ぎた今もなお、最後の望みをかけて都へと旅立ったのです。
ある日、旅の途中で彼は小さな旅館に泊まりました。
ところが、その夜、突然の冷え込みと雨に見舞われ、長年患っていた関節炎が悪化してしまいました。
脚の痛みがひどく、歩くのもままならず、このままでは試験どころではないと不安に駆られました。
けれども、彼の持ち金は旅費に充てる分しかなく、薬を買う余裕はありませんでした。
翌朝、旅館の窓を開けて外を眺めていたとき、ふと視界に入ったのは、庭先の石に絡みついた草藤でした。
その姿は、まるで人体の経絡が石をめぐるかのように見えました。
彼は中医学にも多少通じていたため、ひとつの考えがよぎりました。
(中医学には「取類比象(しゅるいひしょう)」という考えがある。形が似ていれば、働きも似ているはず。ならば、この草藤も経絡を通じさせる働きがあるのではないか?)
そう思った彼は、草藤を何本か摘み取り、煎じて飲んでみることにしました。
するとどうでしょう――脚の痛みが少しずつやわらぎ、翌朝には歩くのがいくぶん楽になっていたのです。
それからというもの、彼は都に着くまでの半月あまり、毎日この草藤を煎じて飲み続けました。
やがて、ほとんど痛みを感じることなく、無事に都へたどり着くことができました。
そして今回の試験で、彼はついに念願の合格を果たしたのです。
郷里に戻る道すがら、彼はかつて自分を救った草藤のそばを再び通りかかりました。
草藤が石に絡みつくその姿を見て、彼はこの植物に名を授けました。
「絡石藤(らくせきとう)」――石に絡みつく草藤という意味です。
その後、彼はこの草藤が関節の痛みによく効くことを村人たちに伝えました。
絡石藤は地元の人々のあいだで大切に育てられ、打撲や関節炎の痛みを和らげる薬草として広く知られるようになりました。
おしまい
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