【中薬を故事で学ぶ】 白花蛇舌草の故事 〜夢の中の白蛇の導き〜

中薬の故事

むかしむかし、ある名医が、重い病に苦しむ男のもとに招かれました。

その病人は、胸や背中に刺すような痛みを訴え、微熱が続き、口からは悪臭のある膿を吐き、日に日に衰弱していました。

これまでに何人もの医師が診察しましたが、誰ひとりとして効果的な治療法を見つけることはできませんでした。

名医は病状を詳しく診て、薬方を考えましたが、どうにもよい処方が思い浮かばず、次第に疲労が募り、机に突っ伏して短い休息をとることにしました。

そのとき――

夢の中に、白い衣をまとった美しい女性が現れました。

彼女は静かに言いました。

「この病人は、非常に善良な心を持つ人です。日頃から命を尊び、捕らえられた蛇や虫を買い取っては、山や野に放してきました。多くの生き物に恩を与えてきたのです。どうか、その命を助けてやってください」

名医は感心しながら、「何かよい処方があれば、教えていただけませんか?」と尋ねました。

すると白衣の女性は、「私についていらっしゃい」と微笑み、ふわりと外へ歩き出しました。

名医がそのあとを追って外に出ると、女性の姿は忽然と消えていました。

ただ、彼女が立っていた地面には、白く光る蛇が一匹、くねりながら舌を伸ばしていました。

その蛇が舌を出した瞬間、草むらの中に一輪の小さな白い花が咲いたのです。

そのとき、名医はふと足音に気づき、目を覚ましました。

病人の家族が、食事の支度ができたと声をかけに来たのです。

名医は静かに言いました。

「……少しだけお時間を。私についてきてください」

そう言って家族を連れ、外へ出ると――
夢で見たあの白い花が、畑の畦にいくつも群生していたのです。

小さな白花を咲かせた細い草が、まるで地面を這うように生えていました。

名医はすぐにいくつかの草を摘み取り、煎じて病人に飲ませました。

すると、苦しんでいた胸の痛みがすっと和らぎ、顔に血色が戻りはじめました。

翌日もその草を続けて煎じて飲ませると、日ごとに回復し、ついには完治したのです。

名医は大いに驚き、この草の名を調べようと、当時の薬草書をくまなく探しましたが、どこにも記載がありませんでした。

それは、文献にも載っていない新たな霊草だったのです。

名医は深く感動し、一首の詩を詠みました。

白花蛇舌草は細く、
農家の畔に静かに広がる。
善心ある者には、必ず善き報いがある。
恩を受けた霊蛇が、薬草の伝を授けたり。

この草は、後に「白花蛇舌草(びゃっかじゃぜつそう)」と名づけられ、毒を清め、膿を排し、炎症を鎮める妙薬として人々に伝えられるようになりました。

善行の報いは、草となって地に芽吹き――
その命は、また別の命を救うこととなったのです。

おしまい


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