昔々、寧夏の中寧に、苟(こう)という姓の農家がありました。
そこには、働き者の夫婦と、聡明で美しい一人娘・紅果の三人が、つつましくも幸せに暮らしていました。
ある日のこと――
紅果と母親は畑に出て、いつものように農作業をしていました。
家では父親が肺の病を患い、寝床で静かに療養していたのですが……
その時、突然――
空に眩しい青い閃光が走り、直後に地を揺るがす大地震が起きました。
土煙が舞い、山が鳴り、谷が裂け――
家は崩れ、父親は命を落としてしまったのです。
母と娘は地に膝をついて泣き伏しました。
母はもともと身体が弱く、悲しみと疲労の中で病はさらに悪化し、やがて目が見えにくくなってしまいました。
紅果は泣いてもどうにもならないと、気丈に心を奮い立たせました。
「お母さんの目を治す薬を、きっと見つけてみせる」
ある朝、紅果は母を隣の家に預け、少しの食料と水を背負って、南山へと旅立ちました。
山を越え、川を渡り、木こりや羊飼いに話を聞きながら、目の病に効く草を探し続けました。
履いていた草鞋(わらじ)は擦り切れ、衣は破れ、脚は棒のように疲れ切っていました。
とうとう、紅果は力尽きて、山の岩に背を預けたまま眠ってしまいました。
その夜、月が静かに山を照らし――
夜明けとともに、白いひげを蓄えた老翁が彼女の前に現れました。
「娘よ、こんな山奥に、なぜたったひとりで?」
紅果は目をこすりながら立ち上がり、これまでのことを老翁に語りました。
話を聞き終えた老翁は、目を細めてうなずきました。
「おまえは本当に孝行な子じゃ……あの山の斜面に赤い茨のような草がある。それを摘み、煎じて母に飲ませなさい。それで体は丈夫になり、目もまた明るくなるであろう」
そう言うと、老翁はふっと霞のように姿を消してしまいました。
紅果はその言葉を信じて、山の斜面を探し回り、とうとう赤い実のついた茨を見つけました。
そっと摘み取って、急いで家へと戻りました。
それから毎日、紅果は薬草を煎じ、母に飲ませ続けました。
すると不思議なことに――
母の体は日に日に元気を取り戻し、やがてその瞳には、かつての輝きが戻ったのです。
紅果は喜び、村中に叫びました。
「明目(目が明るい)!明目!本当にお母さんの目が見えるようになったの!」
この薬草のことはすぐに村中に広まりました。
「目を明るくする実」――明目子と呼ばれるようになったのです。
そして、この明目子こそ、枸杞子(くこし)なのです。
その後、明目子(枸杞)は、目だけでなく、滋養強壮・肝腎の補う・血を養うなど、多くの効能を持つ薬草として、長く人々に親しまれるようになったのでした。
おしまい
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