昔むかし、常山(じょうざん)という名の山がありました。
その山の奥には、人に忘れられたような古びた廃寺がひっそりと建っており、そこには一人の貧しい和尚が住んでいました。
和尚は毎日、山を下りては托鉢をし、わずかな施しで命をつないでいました。
ある年、和尚はマラリアにかかりました。午後になると決まって寒気が走り、やがて高熱に襲われるという日々が続きました。
見る見るうちにやせ細り、骨と皮だけのような姿になっても、治療の金もなく、ただ耐え忍ぶほかありませんでした。
ある日のこと、和尚はいつものように山を下りて托鉢に出かけました。
しかし昼を過ぎても、一口の食べ物にもありつけず、空腹でふらふらになりました。
ついに和尚は、ある貧しい家の門をたたきました。すると家の主はこう言いました。
「うちもろくに食べておらんのです。今日は草の根を煮て粥にしただけのものしかありません。
人に出せるようなものでは……食べれば誰だって吐いてしまいますよ。」
しかし、和尚は腹が減ってどうにもならず、「いただけるだけでありがたい」と言い、ためらわずに二杯の草根粥を平らげました。
腹が満ちた和尚は、日だまりの中で身体をあたためながら、いつものようにマラリアの発作が訪れるのを覚悟して待っていました。
ところが、その日は寒気も熱も来なかったのです。
和尚は不思議に思いながらも、体が少し軽くなったように感じました。
数日経っても発作は現れず、「もしかすると治ったのかもしれない」と喜びました。
けれど、一ヶ月が過ぎたころ、また発作が再び起こったのです。
そのとき、和尚はふと思いました。
(前にあの草の根を食べた後、たしかに発作は収まった……あの草が効いたのではないか?)
そこで和尚は、あの粥を作ってくれた家を再び訪ね、「あの草の根はどこで採ったのですか?」と尋ねました。
家の主人は首をかしげながら答えました。
「それは何も知らないうちの息子が、裏山で適当に掘ってきたものでしてね。吐き気をもよおすような代物です。毒草かもしれません」
息子は和尚を山へ案内し、草が生えていた場所を指さしました。
そこには青い小さな花を咲かせた野草があり、葉は長い楕円形で、縁には小さな鋸のようなギザギザがついていました。
和尚はその草をたくさん掘り取り、寺に持ち帰って周囲に植え、毎日根を煎じて飲み続けました。
やがて――和尚のマラリアは、ついに完全に治ってしまったのです。
その後、托鉢の途中でマラリアに苦しむ人と出会うたびに、和尚はその草を分け与え、飲ませてやりました。すると、一人また一人と、病が癒えていきました。
「常山の廃寺に住む和尚は、マラリアを治す草を知っているらしい」と、噂はあっという間に広まり、遠く数十里も離れた村からも人々が薬を求めてやって来るようになりました。
あるとき、誰かが尋ねました。
「和尚さま、この草には名前があるのですか?」
和尚はしばらく考えて、こう答えました。
「この草は常山の地で私が見つけ、救われたもの。ならば、“常山”と名づけましょう」
それ以来、この草は「常山」と呼ばれるようになり、マラリアを癒す中薬として、今日に至るまで語り継がれることとなりました。
おしまい
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