外から子どもの泣き声が聞こえてきた。
指月が窓を開けると、母親が幼い我が子を抱えているのが見えた。
その子は、心配になるほど泣き止まず、ぐずり続けていた。
「お困りなら、少し話してみませんか?」
指月はそう言って母子を家の中に案内した。
「お困りかな?」と、祖父は尋ねた。
母親は不安げに答えた。
「数日前に熱を出して、そのあと下痢になりました。今では口の中が口内炎だらけで、何も食べようとせず、痛がって泣き止まないんです。薬を飲ませようにも、まったく口にしてくれなくて……」
指月は頭をかきながら言った。
「どうしましょうか? 薬を飲まないとなると、治療のしようが……」
祖父はフフフと笑って言った。
「中に入れられないなら、外から使えばいいんだよ」
「なるほど! 『内治の理はすなわち外治の理』ですね」
腑に落ちた指月は、子どもの人差し指を見た。
これは子どもによく用いられる「虎口診」と呼ばれる方法である。
三歳未満の小児においては、手首の脈診よりも「虎口」と呼ばれる場所にあり、人差し指を走る静脈の色・位置・状態を観察する方が、体内の状態を外から読み取るのに適している。
幼児は「純陽の体」、つまり気血の動きが清らかで通透性が高いため、外からでも内を測ることができるのだ。
この「小児指診法」は、子どもの日常的な病を診る際、中医において極めて実用的な手段とされている。
指紋(人差し指を走る静脈)の色つや・浮き沈み・現れる部位は、病の性質・経過の軽重・正邪の盛衰を反映する。
すなわち——
浮き沈みは病の内外(表裏)を分け、色の赤みや紫みは寒熱を見分け、淡さや滞りは虚実を判断し、三関のどこまで到達するかで、病の深浅を測る。
正常な指紋は、黄色みと赤みがほどよく混じり、「風関」の内側にうっすら現れる程度。
指紋がはっきり浮き出ている場合は、病邪が表にあることが多く、かすんで見えない場合は、病邪が内側に入り込んでいることが多い。
鮮やかな赤色は、たいてい外感の風寒。
紫がかった赤は、熱証であることが多い。
青い色は、風・驚き・痛みを主とし、紫黒色は、血絡のうっ滞であり、病状が重篤であることを示す。
線が細くて淡い場合は虚証、太く濃く、滞るように見える場合は実証を意味する。
指紋が「風関」にとどまるなら病は浅く、「気関」に達すれば、病邪はすでにやや深く、「命関」にまで至れば、病は深く入りこんでいる。
もし指紋が風・気・命の三関を越え、指先まで達しているようなら、それは「透関射甲」と呼ばれ、病が危篤であることを示す。
……
……
(この子の指紋は、紫がかった赤で、体内に熱がこもっている。どう治せばよいのだろう?)
祖父は指月の表情から、疑問を見抜いた。
問われる前に、指月に問いかけた。
「なぜ熱があると思う? なぜ口内炎ができたのだろう?」
指月は考え込みながら答えた。
「もしかして、火が鬱結して、発したから……?」
祖父はうなずいて続けた。
「最初は風寒の感冒で、毛竅が閉じた。そこへ発熱が加わったんだ。すると、外に出られない熱が体内に鬱結する。出られない熱は出口を探す。その結果、口内炎という形で外へ発しようとしているんだ。だから、こういう外寒に包まれた浮火の状態では、一つ、外寒をきちんと散らすこと、二つ、火をしっかり下へ戻すこと(引火帰元)。火が暴れないようにしなければならないんだよ」
祖父の説明に聞き入っている指月に、質問する。
「さて、何を使えばいいかな?」
「肚臍に貼る外用法を使いましょう。薬を飲む必要がありませんし、火を下に引き下ろし、毛孔も開いてくれるはずです」
祖父は、「うん」とうなずいた。
「それなら、細辛粉をお酢で練って、肚臍に貼るといい」
指月は、細辛粉を小さな紙包みに五つ包み、母親に手渡した。
「ご自宅で米酢で練って、お子さんの肚臍に貼ってください。その上から風湿膏(湿布)で固定すると良いでしょう」
その後、母親は五包のうち三包しか使わなかった。
なぜなら三包使った時点(三日目)で、子どもの泣き声は止み、口内炎はみるみるうちに治まり、食欲も戻ってきたからだ。
下痢も自然に治まり、まさに“一挙多得”の効能だった。
指月は『衛生家宝方』を開いてみた。
そこには、まさにこう記されていた——
「小児の口瘡を治するには、細辛末を酢で調え、肚臍に貼る」
まさに大道至簡、言葉少なくして真理を語るとはこのことだった。
指月は、すぐにノートに書き留めた。
小児は薬を飲むのが難しく、口内炎がただれてつらい場合には——
細辛粉を酢で練って、肚臍に貼る外用法が有効である。
特に、発熱後や下痢のあとに、口中がただれ、飲食を拒み、激しく泣き止まないようなときには、
この外用法により、火を下へ引き、毛孔を開き、全身の気機が通じるようになる。
そうすれば、自然と諸症が治っていく。
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