【中薬を故事で学ぶ】 牛膝の故事 〜真の弟子と師匠の遺産〜

中薬の故事

昔々、河南省から安徽省(あんき)にやってきた郎中(医者)がいました。

彼は安徽で薬を売り始めました。

徐々に地元の人々と親しくなってきたので、このまま定住することにしました。

郎中は独身で家族もおらず、一人で生活していました。

そこで、何人かの弟子を取ることにしました。

郎中は、「ある薬草」を重宝していました。

薬草には、筋骨を強くし、肝と腎を補う効果がありました。

郎中は薬草を使った秘方で多くの気血が不足し弱った患者を治療しました。

郎中は秘方を弟子に伝えようと思いましたが、誰に伝えるべきか迷っていました。

弟子たちは皆、人柄が良さそうにみえました。

でも、外から人の本心は分かりません。

真に善良な弟子に伝えるためには試験が必要でした。

そこで、郎中は弟子たちにこう告げました。

「私は老体だ。病気がちで、もう薬を集めて売ることができない。お前たちには必要な知識と技術を教えた。それぞれ独立して生計を立てていきなさい」

それを聞いた一番目の弟子はこう考えました。

「師匠は一生懸命薬を売ってきたのだから、きっと多くのお金を貯めているはずだ」

そして、師匠には子どもがいないため、残された財産は自分が貰うべきだとも考えました。

彼は師匠に言いました。

「私は師匠から離れません! 師匠は私にあらゆる事を教えてくれました。その恩に報いるために、私は師匠を最後まで支えます」

それを聞いた他の弟子たちも同じことを言い出しました。

師匠は、まず一番目の弟子の家に住むことにしました。

一番目の弟子は師匠を豪華にもてなし、師匠を大いに満足させました。

数日後、一番目の弟子は師匠が家にいないときに、こっそりと師匠の荷物を開けて見ました。

すると、師匠はお金を持っていなく、ただ長年売れ残った薬草だけを持っていることが分かりました。

一番目の弟子は非常に失望し、それ以来師匠に対する興味を失いました。

この一件で師匠は一番目の弟子の本心を見抜き、彼の家を去りました。

次は、二番目の弟子の家に住みました。

二番目の弟子も一番目の弟子と同様、最初は師匠に熱心に尽くしましたが、師匠にお金がないことがわかると態度が冷たくなりました。

数日後、師匠は三番目の弟子の家に住むことになりましたが、彼も他の弟子と大差ありませんでした。

結局、師匠は三番目の弟子の家から去りました。

「こんなものなのか……」

荷物を背負って歩きながら、師匠は涙をこぼしました。

一番若い弟子が師匠のところに走って来て「私の家に住んでください!」と言いました。

その時でした。

「私には一文もない。それでもいいのか?」

「師弟は父子のようなものです。子が親を養うのは当然です!」

師匠は若い弟子の真剣な様子を見て、彼の家に住むことにしました。

数日後、師匠は突然病に倒れました。

若い弟子は一日中ふとんのそばで看病しました。

それはまるで、本当の親に尽くす子のようでした。

そんな弟子を見て師匠は、心の中で「うん」と頷きました。

ある日、師匠は若い弟子を呼んで言いました。

「これは宝のような薬草だ。これを使った薬は、筋骨を強くし、肝と腎を補い、病を治すことができる。これをお前に託そう」

その後しばらくして、師匠は亡くなりました。

「私を大切に想ってくてありがとう」

それが師匠の最後の言葉でした。

若い弟子は師匠を手厚く埋葬しました。

そして、その後、彼は師匠から受け継いだ秘方で名医となりました。

師匠が残した薬草は非常に特徴的な形をしていました。

茎には節があり、牛の膝によく似ていました。

そのため、若い弟子は師匠が残した薬草に「牛膝」という名前を付けました。

おしまい


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