【中薬を故事で学ぶ】 麻黄の故事 〜麻黄は面倒臭い?〜

中薬の故事

昔々、薬草を栽培する老人がいました。

子供がいない彼は、弟子の一人を引き取りました。

ところが、その弟子は非常に傲慢な性格で、ほんの少ししか学んでいないにも関わらず、師匠を見下すようになりました。

薬草を売ったお金も師匠に渡さず、勝手に使ってしうこともしばしばでした。

とうとう師匠は我慢ができなくなり、「そんなに勝手にしたいなら、お前はもう独立しなさい!」と弟子に言ったのです。

弟子は「わかった!」と自信満々に答えました。

そんな弟子に対し、師匠は不安そうに告げました。

「独立するのはかまわん。ただし、一つ注意がある。ある薬草は適当に売ってはいけないぞ」

「何ていう薬草ですか?」

「無葉草だ」

弟子は、どうして適当に売ってはいけないのか尋ねました。

「この薬草の根と茎は用途が異なる。茎は発汗に、根は止汗に使うのだ。これを間違えると患者が死ぬことになる。分かったか?しっかり覚えておくのだぞ」と、弟子に言い聞かせるように言いました。

弟子は「分かりました」と答えました。

師匠は「念のため復唱してみなさい」と言いました。

弟子は少し不満そうな表情をしながら師匠の言葉を復唱しました。

その言葉は口先だけで、気持ちがまったく入っていない態度でした。

そうです。

弟子は事の重要性を深く考えていなかったのです。

その日以降、師弟は別れ、それぞれ薬草を売るようになりました。

師匠がいなくなると、弟子の態度はますます大きくなっていきました。

薬草の知識は少ないのに、どんな病気でも治す気でいました。

そんな中、とうとう事件が起こりました。

師匠と離れて数日も経たないうちに、弟子は無葉草を使用して患者を死なせてしまったのです。

患者の家族はすぐさま彼を捕まえ、地元の官吏の下に連行しました。※官吏=役人

官吏はさっそく取り調べを始めました。

「お前は誰から薬草の知識を学んだのだ?」

渋々、彼は師匠の名前を言いました。

官吏は師匠を呼び出しました。

「薬草で人を死なせるなんて、お前は弟子に何を教えたんだ?」と尋ねました。

師匠は官吏の目をまっすぐ見つめて言いました。

「私に罪はありません」

「どうしてお前に罪がないと言える?」

師匠は弟子を一瞥すると官吏に向かい「無葉草に関して、私は重要な注意事項をはっきりと彼に教えたからです」と答えました。

官吏はそれを聞いて弟子に問いました。

「師匠の言葉を覚えているか?言ってみろ」

弟子は「発汗には茎、止汗には根を使う。間違えると死ぬ」と言いました。

官吏はさらに問いました。

「患者は汗をかいていたのか?」

弟子は「全身から虚汗が出ていました」と答えました。

官吏は鋭い目つきで問いました。

「お前は何の薬を使った?」

「無葉草の茎です」と弟子は答えました。

それを聞いて官吏は激怒しました。

「まったくでたらめだ! 虚汗をかいている患者に発汗の薬を使うなんて! 死ぬに決まっているだろう!」

官吏は弟子へ40回の杖刑と、3年間の投獄を命じました。

そして、師匠は即座に解放されました。

月日は流れ、弟子は3年間の投獄生活を終えました。

弟子は、ようやく心を入れ替えました。

彼はすぐに師匠に会いに行き、謝罪し、過去の行いを悔い改めました。

師匠は彼が変わったことを見て、彼を許しました。

そして再び弟子に医道を教え始めたのです。

弟子は無葉草を使用する時はとても慎重に使用するようになりました。

弟子は無葉草に大きな災難をもたらされ、散々な目に遭わされたことから、無葉草を「面倒くさい草」と呼ぶようになりました。
※中国語で「面倒くさい」は「麻煩:マーファン」と言います。

後に、無葉草の根が黄色であることから、「麻黄」と改名されました。

「麻黄」は中国語で「マーファン」

そう、麻煩と同じ発音なのです。

おしまい


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