【中薬を故事で学ぶ】 丁公藤の故事 〜鳥の導き〜

中薬の故事

明の時代、雁門(がんもん)という地に、解叔謙(かい しゅくけん)という名の男が住んでいました。

彼は非常に親孝行で、年老いた母親を深く大切にしていました。

しかし、その母は長年にわたって麻痺に苦しみ、自由に体を動かすことができませんでした。

叔謙は母の病を治すために、腕利きの医師たちを次々と呼び寄せ、あらゆる治療を試みましたが、病状は一向に良くなりませんでした。

ある晩、叔謙は入浴をすませ、香を焚いて庭に出ると、天に向かって心から祈りました。

「どうか、母の病を癒す薬方をお示しください――」

そのときです。

空を横切る一羽の鳥が、「丁公藤(ていこうとう)、丁公藤」と、はっきりと鳴いたのです。

叔謙は驚き、そして喜びに打たれました。

「これは神仏の啓示に違いない!」

翌朝早く、叔謙は薬店へ向かい、「丁公藤」という薬草を求めました。

けれど、どこにも売っておらず、誰もその名を知りませんでした。

彼は名医や薬草に詳しい人々を訪ね歩きましたが、誰一人としてその薬草を知っている者はいません。

ようやく、ひとりの老人がこう言いました。

「宜都山(ぎとさん)なら、もしかすると見つかるかもしれん。」

それを聞いた叔謙は、すぐに食糧を背負い、険しい宜都山へと向かいました。

三日三晩、山をさまよいましたが、薬草らしきものは何も見つかりません。

疲れ果てた四日目、彼は山の奥深くで、木を伐っている老人に出会いました。

老人の背後には、大きな木にからみつく青い藤が揺れていました。

叔謙はその藤を見て、思わず尋ねました。

「お爺さん、この蔓草は何というのですか? 丁公藤をご存じありませんか?」

すると老人は斧を止め、にっこりと笑って言いました。

「それこそが丁公藤じゃよ」

そして指差した藤の葉は、まるで“丁”の字のような形をしており、蛇のように幹に巻きついていました。

「この藤を五斤ばかり採って、細かく刻んで煎じ、こしてから、麹で醸した酒と一緒に飲ませなさい。そうすれば、麻痺の症状もきっとよくなる」

叔謙は感謝を何度も述べ、大切に藤を採って山を下りました。

家に帰ると、教わった通りに丁公藤を煎じ、酒に混ぜて母に飲ませました。

するとどうでしょう。飲んだその日から母の体は少しずつ動くようになり、まもなく杖をついて歩けるまでに回復したのです。

叔謙は涙を流して喜び、残った丁公藤を村人たちにも分け与えました。

そして、それを服用した多くの麻痺の患者が癒されていきました。

こうして丁公藤は「麻痺を癒す草」として知られるようになり、世の人々に親しまれる中薬のひとつとなったのです。

おしまい


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