【中薬を故事で学ぶ】 貝母の故事 〜運命に打ち勝つ力:貝母がもたらした奇跡〜

中薬の故事

昔々、ある村に肺結核を患ったひとりの妊婦がいました。

彼女は体が弱く、最初の出産のとき、赤ん坊を産んだ直後に意識を失ってしまいました。目を覚ましたとき、赤ん坊はすでに亡くなっていました。

その後も再び妊娠して出産しましたが、またしても流産。三度目も同じく、赤ん坊はこの世に生まれることはありませんでした。

三度続いた流産に、夫の両親も夫も深く悩み、家中が暗い空気に包まれていました。

そんなある日、家の前を盲目の占い師が通りがかりました。義母は思い切ってその占い師に、嫁の運命を占ってもらいました。

占い師はしばらく考え、こう言いました。

「あなたの嫁は虎年生まれで、戌の刻(夜七時から九時)に生まれています。洞窟から出た虎はとても凶暴。最初の子は羊年、二番目の子は犬年、三番目の子は亥年生まれ――いずれも虎の餌です。虎は子を食べてしまったのです。」

義母は顔をしかめ、首を振りました。

「虎が自分の子を食べるなんて、そんなことがあるはずありません。」

占い師は静かに答えました。

「これは運命。変えることはできません。」

義母は涙をこらえながら尋ねました。

「それでも……次の子を救う方法はありますか?」

占い師は少し考え、言いました。

「方法はありますが、とても手間がかかります。」

「どんなことでもします。どうか教えてください。」

占い師は語りました。

「次に子が生まれたら、母親に知らせず、赤ん坊を抱いてすぐに東へ走りなさい。百里進むと東の海に出ます。そこに小さな島があるので、そこに上がるのです。虎は海水を嫌います。海を渡れぬ虎は、島までは追って来られません。」

家族はその教えを心に留め、嫁には秘密のまま、時を待ちました。

やがて、嫁が再び妊娠し、出産の日がやって来ました。

夫は赤ん坊が生まれると、すぐに抱き上げ、東へ走りました。

しかし、まだ十里も走らないうちに、赤ん坊は息絶えてしまいました。

家族は大きな悲しみに沈みました。

数日後、再び占い師が姿を現しました。

「走るのが遅すぎました」と占い師は言いました。「虎より速く走って、追いつかれぬようにしなければなりません。」

一年後、嫁はまた妊娠しました。

今度は夫が馬を用意し、餌もたっぷり与えて準備万端にしました。

出産の夜、赤ん坊が生まれるとすぐに夫は馬に乗り、風のように東の海を目指して走りました。やがて海に到着し、船に乗って島へと渡りました。

一方、母親はやはり出産後に意識を失いました。

約一時間後に目を覚ますと、赤ん坊がいないことに気づき、泣き叫びました。

五日後、夫が島から戻ってきました。

「三日目の朝、赤ん坊は亡くなった」と言いました。

家族は言葉を失い、深い悲しみに沈みました。

ついに、夫とその両親は決断しました。

「この嫁といては子が育たぬ。離縁し、新たな妻を迎えよう。」

その話を耳にした嫁は、何も言わずに涙を流しました。

そのとき、ちょうど家の前を医者が通りかかりました。

医者は、うつむく嫁の様子に気づき、声をかけました。

「何かお困りごとがあるのですか?」

嫁はこれまでの出来事をすべて話しました。

医者はじっと嫁の顔色を見て、こう言いました。

「盲目の占い師の言葉など信じてはいけません。これは病なのです。奥方は肺に病があり、気が不足している。そのうえ、出産でさらに気を消耗してしまい、赤ん坊に十分な命の力を与えることができなかったのです。また、肝血を失うことで意識も遠のいてしまう。それだけのことです。」

夫とその両親は半信半疑でしたが、医者は力強く言いました。

「私の教える薬草を三ヶ月間、しっかり飲ませなさい。きっと一年後には、元気な赤子を抱くことができるでしょう。」

家族は迷いながらも、医者の言葉を信じ、嫁を家に留めることにしました。

その日から、医者が教えた野草を毎日山に採りに行き、煎じて嫁に飲ませました。

三ヶ月が経ち、嫁は再び妊娠しました。

そして十ヶ月後――ついに、元気な男の子を無事に出産したのです。

嫁も気を失うことなく、赤ん坊も健やかに育ち、家中が歓喜に包まれました。

百日が過ぎたある日、家族は医者のもとを訪れ、多くの贈り物を持参して、感謝の言葉を伝えました。

医者は微笑みながら言いました。

「私の薬草は、効きましたか?」

嫁は深くうなずき、答えました。

「はい、本当によく効きました!」

夫も言いました。

「この薬草に名前はあるのですか?」

医者は首を横に振りました。

「いいえ、これは野に生える草。名前はまだありません。」

夫はしばし考え、言いました。

「この子の名前は“宝貝(中国語で宝物)”です。母も無事に生きてくれました。ですから、この草を“貝母(ばいも)”と名付けましょう。」

医者は穏やかに笑い、深くうなずきました。

「よい名前ですね。“貝母”と呼びましょう。」

こうして、「貝母」という名の薬草は生まれ、今日に至るまで多くの命を支え続けているのです。

おしまし


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