前回は五要穴を学びました。
今回は五輸穴を学んでいきましょう。
五輸穴
日本では五兪穴と記載されますが、正確には五輸穴です。
「兪」は背部兪穴を指しますので、五輸穴には使いません。
五輸穴は、上肢と下肢の膝・肘関節より末梢にある十二経脈上の経穴のなかで、五行の性質をもつ経穴のことです。
五輸穴は自然界の水の流れに基づいて決められた経穴で、井穴(せいけつ)、滎穴(えいけつ)、輸穴(ゆけつ)、経穴(けいけつ)、合穴(ごうけつ)の五種類あります。
そこに五行の性質を合わせると、陰経は井木穴、滎火穴、輸土穴、経金穴、合水穴となります。
陽経は井金穴、滎水穴、輸木穴、経火穴、合土穴となります。
五行の性質が、陰経と陽経で異なる理由は後ほどご説明します。
※教科書では木穴、火穴、土穴、金穴、水穴を「五行穴」と呼んでいますが、五行穴という名称は古典にはありません。
五輸穴は水の流れに基づいて決められた
五輸穴は自然界の水の流れに基づいて決められました。
そこには「人と自然は同じ構造でできている」という応象思惟の考えがあります。
自然界の水の流れを指先から肘・膝までの範囲に当てはめて五輸穴が決められました。
水の流れとは山から海に至る流れで、5つのポイントに分けています。
※人体では水は気血、海は臓腑を意味します。
- 山で水が湧き出る所が「出る所」で井穴です。
- 湧き出たみずが溜り小さな流れとなる所が「溜る所」で滎穴です。
- 山の中腹に注ぎ大きな池や湖ができる所が「注ぐ所」で輸穴です。
- そこから溢れた水が大きな流れとなり海へと行く所が「行く所」で経穴です。
- 最後に、川が海へと入るところが「入る所」で合穴です。
このように経絡を流れる気血と、自然界に水の流れを対応させ、五輸穴が作られました。

肘・膝より末端に要穴が多いのはなぜ?
五輸穴や原穴、絡穴等、多くの要穴は肘・膝より末端にあります。
何故でしょうか?
理由は、診る相手が偉すぎたからです。
中医学が形成されたのは、時の黄帝の命令によるものです。
つまり、中医学は権力者のみ受けられる医療でした。
当時の黄帝は神様の様な存在で、その親族もとても一般人が目にかかれることはありません。
そんな方々に、現在の鍼灸治療の様に、服を脱いで肌を多く露出してもらうことは不可能です。
最低限見たり触れたりできたのが、唯一、肘・膝より末端でした。
肘・膝より末端に要穴が多く作られたのは、末端だけで治療をしなければならない背景があったためなのです。
当時の医者は大変だったでしょうね・・・汗
五輸穴の主治
五輸穴にはそれぞれ主治(主な効き目)があります。
五輸穴それぞれの主治は以下の通りです。
- 井穴:心穴満(みぞおちの膨満感や緊張に)に効く
- 滎穴:身熱(身体の熱)に効く
- 輸穴:体重節痛(身体が重だるい、関節が痛む)に効く
- 経穴:喘咳寒熱(喘=喘鳴=ゼーゼーや呼吸困難、咳=咳嗽=咳と痰、寒=悪寒、熱=発熱)に効く
- 合穴:逆気而泄(逆気=のぼせ※※、泄は下痢)に効く
※而(じ):〜して
※※逆気は水気上逆で喘咳を表す(中国)
国家試験でも五輸穴の主治はよく問われるので覚えておきましょう。
その後、五輸穴に五行の性質が加わることで、より臨床での応用が広がっていきます。
五行の性質が陰経と陽経で異なる理由
ここで改めて、五行が加わった陰経と陽経の五輸穴をみてみましょう。
- 陰経=井木穴・滎火穴・輸土穴・経金穴・合水穴
- 陽経=井金穴・滎水穴・輸木穴・経火穴・合土穴
陰経は五臓、陽経は六腑が支配しています。
五臓が各組織のリーダーなら六腑はそれを影で制御するサブリーダーです。
※この考えは、「中医学の特徴:整体観念②」で解説していますので、参考にしてください。
そのため、陽経は五臓の働きを制御する「相克関係」の五行性質を持っています。
例:陰経=井木穴・陽経=井金穴(金は木を克する)
陽経の五輸穴が陰経に対し相克関係の五行の性質を持つことにより、より多角的な治療が可能となりました。

井穴(主治は心下満)を例にみていきましょう。
心下満の治療
心下満とは「みぞおちのつかえ」、つまり消化器の失調です。
中医学では脾胃の失調となります。
脾胃が失調した理由が「肝」に合った場合、井穴での治療が有効になります。
ストレスや怒りで肝の疏泄機能が失調し気滞が起こると、脾の運化機能も失調し「心下満」が生じます。
※中医医学では肝が気の流れを良くすることで、消化機能が上手く働くと考えます。
ここで、陰経と陽経の五行属性が異なることで二通りの治療を行うことが可能になります。
パターン1:井木穴を使う場合
肝は木の性質を持っています。
肝が失調して気の流れが滞っているなら、木の性質を持つ陰経の井木穴を使って気の流れを改善させます。
気の流れが改善すれば、脾の運化機能も回復し「心下満」は治ります。

パターン2:井金穴を使う場合
肝が失調して気の流れが滞っているなら、木を克する金の力を使って制御することもできます。
この場合は金の性質を持つ陽経の井金穴を使って気の流れを改善させます。
気の流れが改善すれば、脾の運化機能も回復し「心下満」は治ります。

2パターンみてきましたが、心下満に対してどちらが有効かは患者さん毎に異なります。
大切なのは「治療法の選択肢が増える」ということです。
だって昔は、肘・膝より末端でしか治療が出来なかったんですから・・・。
陰経の輸穴と原穴が同じなのはなぜ?
陽経は原穴が単独で存在するのに、陰経は輸穴と原穴が同じなのはなぜでしょうか?
これは陰経と陽経を通る「気」の量の違うからです。
三焦が属す陽経は、陰経より気の量が多いので、五輸穴だけじゃ足りません。
そこで、陽経は五輸穴で最も気が盛んになる「輸穴」と「経穴」の間にもう一つ要穴を設けています。
それが、「原穴」です。
陰経は陽経ほど気が多くないので、気が集まる輸穴と原穴を同じにしても問題がなかったのです。
この事から、「陰経は五輸有り、陽経は六輸有る」ともいわれます。
最後に
五輸穴は臨床でとても有用な要穴です。
その使い方や、作用機序は中医基礎理論の「五臓」を学ぶとより深く理解することができます。
中医基礎理論で五臓を学んだ後に改めて、五輸穴の使い方はご紹介していきたいと思います。
どうぞ、お楽しみに♪