祖父と孫の中医学物語 第二十五話 香薷と止血

中医学物語

あるところに兄弟がいた。

幼い頃に両親を亡くし、家計は苦しかったが、兄は自らの進学を諦め、弟を学校に通わせていた。

朝早くから夜遅くまで働き、わずかな収入をかき集め、すべてを弟のために注いでいたのだ。

ところがその弟は感謝の気持ちなど微塵もなく、怠け者になり下がり、仲間とつるんでは遊び回る日々を送っていた。

兄は見て見ぬふりができず、ある日ついに激怒した。

「お前は人の恩を何とも思わぬのか!」と叫び、竹の杖を手に取ったが、近所の者たちが慌てて止めに入った。

だが弟は逆にこう言い放った。

「兄さんは親じゃない。俺に命令する資格なんてないさ」

こうして弟は反省することもなく、また遊びに出かけていった。

兄は悔しさと怒りをこらえきれず、ついには舌の上から血がにじみ出た。

もはや弟を諭すことはできぬと悟った兄は、まずこの体を治すことにした。

向かった先は、茅葺きの家であった。

「舌から血が出るときは、どうしたらいい?」

祖父が問いかけると、指月はさっと『肘後方』を開いてこう答えた。

「ここにあります。香薷の汁を一日三回服すれば、針で刺したように急に出た出血にも効くと書かれています」

ちょうどその日、香薷をたっぷりと採ってきたばかりだった。

汁を搾って兄に飲ませると、舌の出血はすぐに止まった。

「なんで香薷には止血の効果があるのかな……」

指月が首をかしげていると、祖父が『草薬歌訣』を口ずさみ始めた。

草木中空善治風(草木が中空なら風を治すに善し、)
対枝対葉能医红(枝葉が対になれば出血を癒す。)
葉边有刺皆消腫(葉の縁に刺あれば腫れを消し、)
葉中有漿抜毒功(葉の中に汁あれば毒を抜く効あり。)

この詩句は、指月にとって耳馴染みのあるものだった。

だが、今日はそれを祖父が口にしたということは、きっと、解説が始まる合図に違いない――そう思った指月は背筋を正し、耳を澄ませた。

「草木の茎が中空であれば、風邪を祓うに向いている。つる性の植物に多く見られる特徴で、通りが良く、表裏の気を調える。こうして気の流れが整えば、風邪も自然と消える。また、枝葉が対称に生えるものは、出血に効く薬性を持つ。香薷はその典型で、鼻血や舌の出血のように、上方からの出血に特に向いている。香薷は香り高く、昇る力があるため、そうした症状に応じる。葉に刺をもつ植物――たとえば穿破石や皂角刺、両面針など――は、腫れや痛みを散らす。刺が持つ尖った薬気が、滞った血や膿を破って外に出す力を持つからだ。葉の中に粘液を含むもの――たとえば一部の野草や多肉植物――は、毒を引き出すのに用いられる。蚊や蜂、毒虫に刺されたときには、その葉を揉みつぶして汁を塗ると効果がある。香薷は、対称の枝葉をもち、昇る性質をもつことから、鼻出血や舌の出血に適していると分かる」

病が治ったはずの兄は、表情を曇らせたままだった。

指月は不思議に思い、尋ねた。

「ふつうは治ったら喜ぶはずなのに、なぜそんなに浮かない顔をしているの?」

すると兄は、しぶしぶ自分の家庭の悩みを語った。

「病は医に隠すべからず」とはよく言ったもの。

病を治すには、内に秘めた苦しみまでも明かさねばならないのだ。

指月も、兄の深い悩みに触れ、もはやこれは医者の仕事ではないと感じた。

ところが、祖父は微笑を浮かべた。

いつものその表情を見るとき、指月は必ず「何かある」と直感する。

祖父はそっと兄の耳元で何かを囁いた。

指月はそれが「妙計」であることを察しながらも、尋ねるのは控えた。

数ヶ月が過ぎ、彼らもその出来事を忘れかけていたころ、突然あの兄弟が再び訪ねてきた。

だが今回は診療ではなく、礼を述べるためだった。

舌の出血を治したことへの礼ではなかった。

兄弟仲を修復してくれたことへの感謝だった。

実は、兄は家に戻ったあと、亡き両親の位牌の前に座り、日夜泣き続けた。

食も取らず、眠ることもできず、「自分は兄としてふさわしくない」「弟を導けなかった自分に生きる資格はない」と自責の言葉を繰り返していた。

その姿を目の当たりにした弟は、大きな衝撃を受けた。

そして深く後悔し、遊び仲間と縁を切り、真剣に学問に励むようになったのだ。

兄弟の間には、以前よりも深い絆が生まれていた。

何を囁いたか、祖父は最後まで語らなかったが、指月は思った。

(医者とは、病だけでなく、人の心までも癒やすものなのだ)


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