茅葺きの家から、指月が《治病主薬訣》を朗々と背誦する声が聞こえてくる――
頭痛には必ず川芎を用いる、それでも治らねば引経薬を加えるべし。
太陽経には羌活、少しばかり柴胡を。
陽明には白芷を、これまた外せぬ。
太陰には蒼朮を、細辛を少々添えてよし。
厥陰ならば呉茱萸、誤りなく使うべし。
巓頂(てっぺん)の痛みは人それぞれ、藁本を用いて川芎を除く。
手足節々の痛みには羌活を、風湿を祛う力あり。
その時――
ドン!ドン!ドン!
重々しく戸を叩く音が鳴り響いた。
ひとりの男が、頭を抱えながら入ってきた。
顔は苦悶に歪み、肩をすぼめながらふらついている。
指月はすぐに彼を診察室へと案内した。
「どうされたのですか?」
男は眉間に深い皺を寄せながら答えた。
「もう、頭が割れそうなんだ……昨日の夜からずっと、後頭部がズキズキ痛んで、まるで金槌で叩かれてるみたいなんだよ……」
祖父は指月に向かって問いかけた。
「頭痛を診るには、まず何を尋ねるべきかな?」
指月はすかさず答えた。
「部位です。まず、どこが一番痛むのかを聞きます」
そして、目の前の男に向き直って尋ねた。
「一番つらいのはどの辺りですか?」
男は相変わらず眉間にしわを寄せ、歯を食いしばりながら、苦悶に満ちた顔で答えた。
「後頭部だ……まるで金槌で殴られてるような痛さなんだ……」
祖父はうなずきながら、再び小指月に尋ねた。
「では、これはどの経絡を通る痛みだろうか?」
「後頭部なら足の太陽膀胱経ですね」
そう言うと、指月はその経絡の流注をスラスラと背誦した。
「膀胱足太陽の脈は、目の内眦より起こり、額を通り、巓(てっぺん)を交わり、巓より内に入りて脳に絡し、項より出でて下り、肩甲の内を循り、脊を挟みて腰中に至り……」
祖父は満足そうにうなずいた。
「部位のほかに、もう一つ重要なことは何かな?」
指月はにこりと笑って答える。
「何より大事なのは、やはり、病因をはっきりさせることです。」
指月はすかさず男に尋ねた。
「昨日、冷たい風に当たったりしませんでしたか?」
男はうなずいた。
「昨日の昼はすごく暑くてな……窓際の椅子に座って、つい眠ってしまったんだ。頭を窓の縁に寄せてたから、後頭部が窓からの風をまともに受けてて……目が覚めたときにはちょっと違和感があったけど、夜になったら激しく痛み出して。昨日の夜はまったく眠れなかったよ……」
指月は男の脈を診た。
脈は浮。舌を見ると、薄く白い苔がついていた。
「祖父、これなら私にも治せます。この頭痛は足の太陽膀胱経が寒邪にやられたものです。寒は収引性があり、経絡の気血の流れが阻まれて痛みが出ているのです。太陽膀胱経は表に属しているから、発汗させて寒邪を追い出すべきです。太陽経の風薬である羌活を使えば大丈夫です」
そしてこうも付け加えた。
「『珍珠囊』にはこうあります──『羌活は太陽経の頭痛を主とし、諸々の骨節の痛みを除く』と」
祖父は満足げにうなずいた。
「うん、その通りだ。そうやって診るんだ」
そして指月は、男のために羌活粉をひと包み調合し、「これを温かい酒で溶いて飲んでください」と、手渡した。
男はきょとんとしていた。
「先生、あんたまだ何もしてないでしょう? この小さく若い先生の処方、本当に効くんですか? こちとら頭が割れるほど痛いんですよ」
祖父は笑って答えた。
「小さな火といえど油断するな、小さな王といえど侮るな、そして小さな医者といえど軽んじるな。安心して帰って薬を飲みなさい」
男はまだ少し不安げだったが、それ以上もう何も言えず、黙って薬を持って帰っていった。
言われたとおり温かい酒で薬を服み、布団をかぶると、すぐにうっすら汗がにじみ出てきた。
特に首筋から背中にかけて、服がじっとりと湿るほどだった。
男は驚いた。
(あの坊主、ただ者じゃないな。帰るときに『薬は温かい酒で飲んで、すぐに布団をかぶるように。そうすれば首と背中あたりからすぐ汗が出てくる。汗が出れば、頭痛は治る』って言ってたが、まさにその通りだ!)
発汗によって、頭の寒気がすっかり抜け、まるで縛られていた体がふっと解けたように、体全体が軽くなった。
翌朝、男は茅葺の家まで礼を言いにやって来た。
「おかげで良くなったよ。若いけど、すごい先生だ!」
こうした村人たちはみな純朴で、薬が効いて病が癒えると、必ず感謝の気持ちを持って礼を尽くすのだった。
男が帰ると、指月はノートにこう書き記した。
膀胱経、背部に寒気が加われば、後頭部の痛みはまるで棒で打たれたよう。
膀胱系、皮膚表面にあるものは汗法で治す。
この時こそ羌活を使うのが良い。
さらに温めた酒で服用し発汗すれば、寒は散り、痛みは止む。
その効き目は賞賛に値する。
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