祖父と孫の中医学物語 第三十五話 寒包火の扁桃炎

中医学物語

ある若者がいた。

何よりも「フライドチキン」が大好きで、店の前を通るたびに必ず一本買ってはかぶりついていた。

十七、八歳の身体はぽっちゃりと太り、しかも家庭が裕福なため、小遣いは使い切れないほどもらっていた。

彼は、フライドチキンを食べる後には、必ずと言っていいほどサイダーを一本買い、それを流し込むようにして飲むのが習慣になっていた。

冷たい刺激と、甘さと、脂の風味が混ざり合い、それがたまらなく「うまい」と思っていたのだ。

けれど、この習慣が身についてからというもの、月に一度か二度、決まって扁桃炎を起こすようになった。

風邪をひいては高熱を出し、喉は赤く腫れ上がり、熱をもって焼けるように痛んだ。

ひどいときには、粥すら喉を通らないほどだ。

いったん治っても、また一、二ヶ月で再発した。

しかも、その間隔は次第に短くなり、症状はますます強まった。

熱も引かず、完治には十日やそこらはかかる始末だった。

とうとう勉強にも支障をきたすようになった。

そして、今回が最悪だった。

ここ三、四日、喉の腫れで言葉すら出ず、水をすするのがやっとで、粥を飲み下すのもひどく苦しい。

医者は瀉火薬をたっぷり使ったが、喉の腫れを治すことはできず、皆が首を振るばかりであった。

そんなことを十日以上も続けているうちに、彼の身体は5〜6kgもやせ、顔色はくすみ、憔悴し切ってしまった。

家族は、まるで熱した鍋の上の蟻のように、ただただ右往左往していた。

ついに彼らは、茅葺の家を訪ねることにした。

祖父は少年の様子をひと目見て、見通しを立てた。

祖父は、目の前の炎症をどうこうすることではなく――「今後、どうすればこの病を繰り返さずに済むのか」、そこに思いを巡らせていたのである。

一方、少年の両親は気が気ではなく、焦りに焦っていた。

そしてついに、震える声でこう問いかけた。

「先生、どうしてこの子の喉の炎症は、発作のたびに重くなるのですか? もしかして、腫瘍とか……がんじゃないでしょうか?」

祖父は静かにため息をついた。

その様子に、両親は蒼ざめ、小さく呻き言葉を失った。

寝台に横たわっていた少年も、まるで魂が抜けたかのようにうつろな目を浮かべた。

彼は聞いてしまったのだ――「もし茅葺の家の先生でも打つ手がないようなら、他に誰に頼っても無駄だ」と、そんな噂を。

祖父は穏やかに語り始めた。

「病を治すには、まず“その病がどうして起きたか”を知らねばならない」

父母はたまらず尋ねた。

「それでは、先生……この子はいったい、どうしてこの病を?」

「この病は、誰かにうつされたものではない。――自分で招いたのです」

「自分で……?」

両親はきょとんとし、言葉の意味を測りかねていた。

「この子の左寸口の脈は洪数だ。左寸口は肺と大腸が属す。この子の肺と大腸には熱がこもっているということだ。肺は咽喉を通じて天気に接し、大腸は肛門を通じて地気を受ける。ゆえに、この子の呼吸には熱気と臭気があり、排便時も肛門が焼けるように熱いはずだ」

両親は思わず寝ている息子のほうを振り返ると、「まさに、その通りだ」と、少年は大きくうなずいていた。

「なぜ肺と大腸に、烈しい熱がこもったのか。 それは……焼き物や辛い物をよく食べているね?」

両親は思い当たる節があるのか、すぐにうなずいた。

「はい、よくお小遣いでフライドチキンを買っています。辛いソースをかけて食べるのが好きで……」
「それこそが、たびたび扁桃炎や咽頭炎を発する根っこだよ。中医学では“辛は肺に走る”といって、辛味や焼き物は肺と大腸の津液――潤いを干からびさせやすいんだ。肺の津液が枯れると、咽喉がすぐに腫れて炎症を起こし、扁桃も腫れ上がる。大腸の津液が枯れれば、便秘・痔・肛裂・出血といった症状があらわれる。……これから、そういうものを断てるかい?」

もはや病は命に関わるところまで至っていた。

家族全員が、大きくうなずいた。

寝床にいる少年も、首を力強く縦に振った。

この場に及んでは、食生活を改善しろと言われても、誰ひとり異を唱えない。

生死の境で、命を救う医者の言葉は、まるで聖旨のごとく、一字一句、心に刻まれるのであった。

祖父は指月に向かって「もう一度、よく脈を診てみなさい」と言った。

指月は注意深く指をあてた。

「ん? この脈、なんだか少し“緊”を帯びているような……」

祖父はにやりと笑った。

「そこが肝心なところだ。実は、外寒があるんだよ。この子がこうなった原因は、辛いものや焼き物だけではない。普段から冷たいものもよく口にしていたはずだ。そうした飲食の“生冷”が肌表や咽喉を収縮させ、毒火を内に閉じ込めてしまったんだ。だから、他の医者が大量に“瀉火薬”を与えても、火は出てこなかった。皆、脈の“洪数”ばかりを見て、“浮重帯緊”――火を包んでいる寒の存在を見落としていたんだ。このような“寒包火”の証では、外から寒を散じ、内では毒火を瀉す――“外解寒邪、内瀉毒火”の両面から対処しなくてはいけない」

そう言いながら祖父は、さらに念を押した。

「それと、今後は冷えたサイダーや氷の入った飲み物は控えなさい。そういうものを飲めば飲むほど、咽喉の気血は滞り、肉芽や腫れができて、ついには塞がってしまうよ。そうなれば食事も通らず、餓えて命を落とすことだってあるんだ」

その言葉に、家族一同はようやく悟った。

この病の根はすべて、「食」にあったのだと。

病の原因さえわかれば、治療はそれほど難しいことではなかった。

祖父は指月に、たった三味の薬を指示した。

羌活 五銭(約15g)
蒲公英 一両(約30g)
板藍根 一両(約30g)

「水で煎じて服用するように」

「えっ、たったこれだけですか? しかも三日分だけ?」

本当にこれで効くのか、と心配する両親だったが、祖父を信じた。

帰るとすぐに薬を煎じ、息子に飲ませた。

すると――

一剤目で熱が下がり、二剤目で咽喉の腫れが引き、少しずつお粥が食べられるようになった。

三剤目を飲み終える頃には、まるで病などなかったかのように回復していた。

三日後、感謝を伝えに、家族全員が再び茅葺の家を訪れた。

祖父はにこやかに言った。

「礼には及ばない。今後は、しっかり生活を整えること。乱れた身体の後始末を、いつも医者に頼っていてはいけないよ。零食(間食)で病は養えても、命は養えぬ――自分の身体は自分で大事にすること」

祖父の言葉に、少年は深くうなずいた。

それ以来、少年は揚げ物・焼き物・冷たい飲み物を口にしなくなった。

――そう、少年は聡明だった。

病の根を知りながら悔い改めなければ、それはまるで、足の親指を強く打って痛めておきながら、なおも足を踏み続けるようなもの。

病の苦しみを医者が代わって受けてくれるわけではない。

最終的には、自分自身がすべて引き受けねばならないのだ。

指月は学びをノートに記した。


感冒発熱・扁桃炎の治療には、以下の処方が効果的である。

  • 羌活 五銭
  • 蒲公英 一両
  • 板蓝根 一両

すべてを水で煎じて服用する。

羌活は風寒を外に発散し、冷たい飲食によって傷ついた肌表の寒邪を解く。

板蓝根・蒲公英は体内の毒熱を清め、揚げ物や辛味で焼かれた消化器全体の苦痛を鎮める。

つまり――「表を解き、裏を清める」。

寒邪に包まれた火熱の病、「寒包火」を根本から解きほぐす鍵は、まさにこの「表里の双解」にある。


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