祖父と孫の中医学物語 第四十二話 同病異治

中医学物語

ふたりの婦人が、そろって「帯下」に悩まされていた。

どちらも苦痛に耐えかね、茅葺の家を訪れたのだった。

だが不思議なことに、祖父は一人には「防風薬」を、もう一人には「黄芩薬」を与えた。

そして結果は――どちらも、見事に快癒したのだ。

その様子を見ていた指月は、不思議でならなかった。

「同じように帯下が止まらないという病なのに、なぜ使う薬がこんなに違うのでしょうか?」

祖父はにこやかに言った。

「ふたりの脈をきちんと診たのかな?」

指月は手首に触れた感触を思い返す。

「一人は脈が浮き上がって、速く激しく跳ねていた。もう一人は脈が沈んでいて、弱く頼りなかった……」

祖父はにっこり笑った。

「そう、その違いが全てを分けるんだよ。前者の脈が亢盛だった婦人は、帯下が黄濁して、血もやや赤く濃かった。これは明らかに熱、つまり“上焦の火”が原因だ。だから、黄芩で肺火を収めてやれば、火が下り、自然と帯下も止まる。一方、後者の婦人は脈が弱く、帯下も冷えたように清らかで、水のように薄かった。これは脾気が弱り、清陽が上がらず、湿が下に沈んで漏れ出している証だ。そうしたときは、風薬である防風を使って陽気を引き上げるんだ。風は湿に勝る。陽は陰を制す。地気が天に昇り、雲をなせば、地下にこもっていた湿は、自ずと乾いてゆく――それと同じ理屈だよ」

指月は、胸がすっと晴れるような思いがした。

同じように見える病でも、病の「機序」が異なれば、使う薬はまるで正反対になる。

まさに、祖父がいつも口にする“同病異治”の極意であった。

祖父は奥から一冊の古書を取り出し、指月に渡した。

『本経逢原』という書である。

そこには、こう記されていた。

「婦人の風が胞門(子宮)に入って、崩中止まず、漏下が湿として続くとき――防風一味にて成る『独聖散』を用いる。風は水を乾かす力がある。面糊と酒で練り、丸と為して服すべし。ただし血色が清く稀で、脈が浮いて弦である者に限る」

「もし血色が濃く赤く、脈が速い者には、これは上焦に熱がある証。このときは黄芩一味の丸薬を用いるべし。混ぜてはならぬ。」

それを読んで指月は、ノートに筆を走らせた。

同じ“病名”にとらわれていては、医は誤る。真に診るべきは、その“機”の違いなり――


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