ある一人の若い書生がいた。
学問に励んでも四方八方うまくいかず、焦れば焦るほど勉強が手につかなくなり、学校の成績も一向に上がらなかった。
彼は悩み、きっと自分は医を学ぶ器ではないのだと、落ち込んでいた。
そんな状況に加え、彼の鼻はいつも詰まっていた。
夜もまともに眠れず、口で呼吸するしかなかった。
彼はついに耐えられず、茅葺の家を訪れた。
「先生の博学多才とご高名はかねてより存じ上げております。どうか、私に学問の近道を教えていただけませんか?」
祖父はにこやかに答えた。
「学問に近道はないよ。勤めてこそ道は開け、怠れば退く。一心に進めば前に進むが、多心あれば廃れる」
彼はその言葉に満足できず、心の中で思った。
(またお決まりの言葉か。私だって十分に努力している。それなのに一向に成果が出ない。毎日書物に埋もれているのに……)
祖父は一目で彼の功を焦る心と、不安な心を見抜いた。
そこで彼を連れて家の近くにある畑に向かった。
農夫たちが種を蒔き、ようやく生えてきたばかりの苗を指さして言った。
「よく見なさい。苗は伸びているかな?」
彼はしばらくじっと見つめたが、苗に変化はなかった。
「伸びているようには見えません。あたりまえじゃないですか。そんな急には伸びません」
祖父は笑ってうなずいた。
「そうだね。だが、苗は刻一刻と静かに伸びている。君が見えていないないだだよ。学問もまた同じ。時間をかけて積み重ねることが肝要なんだ。三ヶ月もすれば、この苗も稲穂を結ぶ。焦る必要はない。急いでは事を仕損ずる。焦るほどに学問には多くの障害が生まれるんだ。悠然と、途切れることなく勤めることで、やがて実を結ぶんだよ」
そして祖父は、書生を連れて、家のそばにある大きな砥石の前へ向かった。
「見てごらん。どうしてこの固い石が鞍のように真ん中凹んでいると思う?」
彼はそれを見てすぐに答えた。
「毎日刀を研いだのでしょう。どんなに硬い石でも、続けていれば削れてしまいます」
「そのとおり。かつてどれほど多く学んでも、それを中断すれば、たとえ石のように固い基礎であろうと、時が経て忘れてしまうんだ。学びをやめれば、積んだものは次第に磨り減っていく。学問とは、ひたすらに続けること。それしかないんだよ」
指月は横で話を聞いていて、何度も大きくうなずいた。
自分もまさにこうして、一歩一歩、祖父に鍛えられてきたのだ。
そしてその若き書生もまた、老先生の言葉を聞き終えると、心に積もっていた疑念が、春の陽気に溶ける雪のように、すっと消えていった。
彼は深く礼をして言った。
「ありがとうございます。先生の教え、心に刻みます。」
勤学は春苗のごとし、成長は見えずとも日々伸びる。
辍学(学を絶つ)は砥石の如し、減りは見えずとも日に磨滅する。
書生はこの二句を口にすると、「これを机の横に貼って、座右の銘とします」と誓った。
さて、学問の悩みは解決したものの、彼は本来の目的を思い出した。
「あっ、そうでした。実は鼻がずっと詰まっていて、夜も眠れないのです」
「胸に石が詰まっておるのに、肺の通りがよくなると思うかな?」
彼と指月は「その通りだ」と、思わず笑ってしまった。
祖父は指月に、「細辛の粉を持ってきなさい」と指示した。
指月は慣れた手つきで細辛粉を持ってきて、少量を彼の鼻に吹き入れた。
彼はくしゃみを数回発すると、鼻はすっと通るようになった。
同時に胸の詰まりまで取れたように感じた。
「これは……なんと不思議な薬ですね!」
祖父は細辛粉を一包み渡した。
「この細辛は、君の身体の曇りを吹き飛ばしてくれるだろう。しかし、君の心に差し込む陽の光──すなわち「智慧の陽光」だけは、自らの力で灯さねばならない。焦らず学びに臨むことで、君子はつねに遠大な志を抱き続けることができるんだよ」
書生はその言葉を聞いて、先生が自分に「志を高く持て」と諭しているのだと悟った。
志を高く掲げれば、自然と心の鬱々も晴れていく。
ちょうど山が高ければ高いほど空気の流れは良くなり、雲の鬱滞など起こらぬように。
山の麓にこそ気が滞りやすいのだ。
ゆえに、人としても学問においても、常に高く遠い志を胸に抱くべきなのだ。
書生は感銘を受け、多少持っていた薬の知識を用いて、即興で一句歌った。
「厚朴(厚く人を思いやる)で人と接し、郁李仁(憂鬱をほぐす思いやり)で心を慰め、細辛(細やかな知恵)をもって道を開く」
三人は大笑いしながら、家へ戻っていった。
指月はその道すがら、疑問を口にした。
「祖父? なぜ心が鬱々としていると鼻が詰まるのでしょうか?」
祖父は笑って答えた。
「肺は鼻に通じ、気を主る。あらゆる気の鬱結は肺に関係するんだよ。だから、鬱々と心が詰まれば、鼻も詰まるんだ」
さっそく指月は、今回の学びをノートに記した。
『普済方』曰く:鼻閉に用いるには、細辛末少許を取り、鼻に吹き入れる。
肺は鼻と通じている。
胸の気が滞れば、鼻の通りも悪くなる。
外から刺激してくしゃみを起こし、肺気を動かす方法もあれば、通宣理肺の薬(たとえば麻黄附子細辛湯)を服して、内から肺蓋を開く方法もある。
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