祖父と孫の中医学物語 第八話 桂枝酒による風冷頭痛の治療

中医学物語

「急に雨が降るなんて……」

ある生理中の女性が雨に濡れてしまいました。

家に帰って少しすると頭痛を感じ始めました。

彼女は、少し休めば頭痛が治るだろうと思っていましたが、一週間が過ぎても頭痛は治るどころか、むしろ悪化しました。加えて悪風や、汗出もみられるようになったのです。

それ以上症状が悪化することが怖かったので、彼女は茅葺き屋根の医者を訪ねました。

「指月よ。麻黄湯は風寒が閉じ込められた頭痛を治療できるが、この頭痛には麻黄湯が使えないのは何故だ?」

指月は答えました。

「風寒に侵襲された場合、汗が出ていない場合は麻黄を使い、汗が出ている場合は桂枝を使います。汗が出ていない場合は麻黄を使って発汗解表するため、すでに汗が出ている場合は体内に風邪が残っているので桂枝を使って温通経脈を行います」

祖父はさらに尋ねました。

「では、どうすれば最も早く桂枝の温通経脈の効果を頭に届けて、彼女の頭の経脈を疏通させ、痛みを和らげることができるだろうか?」

指月は考えましたが、思いつきませんでした。

それもそのはずです。

その方法は、これまで祖父が教えたことがない方法でした。

(何を使えば頭に届き、最も早く風冷頭痛を治療できるのか?)

指月は突然、閃きました。

「そうだ! 川芎だ! 頭痛には川芎が欠かせません。川芎を桂枝湯に加えれば、彼女のような脈浮緩で、汗出がみられる風冷頭痛を治療できます」

祖父は笑いながら首を横に振りました。

指月は困惑しました。

「間違っていますか?」

「いや、間違えてはいないが、最適な答えではない」

そう言うと祖父は薬棚にある桂枝酒の瓶を指さしました。

「確かに頭痛には川芎が効く。川芎は薬を頭に速やかに届けることができる。だが、川芎よりも速く効果があるのは酒なんだ」

指月は以前、桂枝酒を漬けたときのことを思い出しました。

指月は祖父に「私も飲んでみたいです。祖父はよく酒を飲んで楽しそうにしているけど、この酒はどんな味がするのでしょうか?」と聞きました。

祖父は特に止めることもせず、指月に桂枝酒を一杯飲ませました。

すると、口から胃にかけて焼けるような感じがして、すぐに顔が赤くなり、汗がでて、全身が熱くなりました。

「このお酒、美味しくないです! 喉が焼けるみたいに辛くて、まるで刀で切られるみたいだ!」

「だから言っただろう、若い者は酒を飲むものじゃない。お前の体はまだ未熟なんだから」と笑いながら言いました。

指月は鏡の前に行って、自分の顔を覗き込みました。

すると、顔は真っ赤に染まり、頬がほてっていました。

その熱感はなかなか収まらず、ようやく午後になって落ち着きました。

この体験を通して、彼は身をもって「酒が薬を引き上げ、頭や顔にまで巡らせる」ということの意味を理解したのでした。

指月は桂枝酒を少し温めてから、女性に一杯飲ませました。

酒を一気に飲み干すと、すぐに耳が赤くなり、ほてりだしました。

すると、先ほどまで痛みで頭を抱えていたのに、すっかり痛みが消えてしまったのです。

彼女は信じられない様子で、頭を触ったり振ってみたりしましたが、本当に痛みが消えていました。

「先生! ありがとうございます!」と感謝して、彼女は帰って行きました。

祖父は言いました。

「桂枝酒は風冷頭痛を治療する最も効果的で簡便な方法だ。指月、お前はこれがどういう理屈か説明できるか?」

祖父から突然の質問でしたが、指月はすでに答える準備ができていました。

「桂枝は辛甘で発散作用を持ち、陽性の性質を持つ薬物です。また、経脈を温めて通す作用があります。酒も同様に血脈を疏通し、直接頭部にまで巡らせる働きがあります。これら二つの陽性の力が合わさることで、気血が一気に頭頂へと昇ります。温かい酒なら効果はさらに高まります。頭は『諸陽の会』とされ、全身の陽気が集まる場所です。もし頭部の陽気が不足すると、風寒が経脈を拘束し、気血の流れが滞ることで痛みを引き起こします。しかし、頭部の陽気が十分に満ちると、経脈が通りやすくなり、寒気は汗とともに体外へ排出されます。桂枝酒は頭部の経脈を温めて疏通させるので、風冷頭痛を治療することができるのです」

祖父は微笑みながら、「そのとおりだ」と静かに肯きました。


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