まず初めに:科目名の意味について
このブログでは「経絡腧穴学」を学んでいきます。
多くの学校では「経絡経穴学」という名前で授業を行っていますが、その名前では誤りが生じます。
今後、「経絡」という気血の通り道について学習します。
経絡には、それぞれ自分の経絡に固有のツボを持っています。
経絡に固有のツボを「経穴」といいます。
経穴だけを学ぶのであれば経絡経穴学で良いのですが、ツボは経穴だけではありません。
「奇穴」や「阿是穴」など、経絡に関係のないツボもたくさんあり、授業ではこれらも学習します。
「腧穴(ゆけつ)」は全てのツボを含んだ意味を持っています。
なので、「経絡腧穴学」という名前を用いる方が適切なのです。
みなさんも専門家になるわけですから、経穴と腧穴の違いはきちんと覚えておきましょう。
経絡
経絡は、全身に張り巡らされた気血の通り道です。
経絡の中を気血が正常に流れていれば、人は健康でいられます。
経絡に問題が生じたら、経絡または経絡上に点在する経穴を使って治療を行います。
鍼灸師は、経絡と経穴を使って治療を行うプロフェッショナルなので必ずマスターしなければなりません。
では、この経絡はどの様に出来たのかを見ていきましょう。
経絡概念の産生~2つの方法~
経絡の概念が生まれた経緯は主に2つあります。
①実際に見て触って、身体の繋がりを理解した

身体を観察すると様々なルートが見えてきます。
血管、神経、骨、筋肉はそれぞれが線形の構造をしています。
そして、経絡は血管、神経、骨、筋肉の走行に一致している箇所が多いです。
解剖学的な構造から経絡というルートを導き出したというのは、想像に難くないですね。
近年、「アナトミートレイン」という筋肉の線形のつながりを示す概念が広まっていますが、走行が経絡と驚くほど似ています。
昔の人の観察力ってすごいと思いませんか?
②自然と照らし合わせたり、経験を通して分析した

経絡も東洋医学です。
東洋医学では自然界と人は同じものだから、同じ構造を持つと考えます。
この思考法を「応象思惟」と言います。
経絡は数種類に分類することができ、「経脈」というルートが12本、「奇経」というルートが8本あります。
これは、その当時の中国には「十二の河川と八の湖があるから、人体にも同じ様に十二経脈と奇経八脈がある」と考えたからです。
もちろんそれだけでは「想像」に過ぎないので、実際の経験と照らし合わせていきます。
胃の不調を改善する経穴が多く並ぶルートがあったり、鍼を刺した後に生じる得気(ズーンとした感覚)が走るルートがあったりと、実際の経験を通して経絡は少しづつ完成されていきます。
①と②の方法を通して、経絡という概念が形成されていくのですが、「もともとある経絡を発見していった」の方が、適切な表現かもしれませんね。
経絡の分類
経絡は「経脈」と「絡脈」が合わさった熟語です。
経脈

経脈の「経」は「縦に走る線」を意味します。
地球で経度は北極と南極を結ぶ縦線のことですし、神経の経も経脈が由来です。
神経は、前野良沢や杉田玄白らが『解体新書』を翻訳する際、オランダ語「zenuw」の訳を、魂や心、精神を表の意味を持つ「神」と、 縦に走る構造から経脈の「経」を合わせて「神経」としました。
神経がの様に、中医学の言葉が由来の医学用語はたくさんあります。
中医学の影響の大きさを感じますね。
話しを経脈に戻します。
経脈はその名の通り1本の例外を除いて、全て縦に走行しています。
経脈には①十二経脈、②奇経八脈、③十二経別があります。
十二経脈

十二経脈は正経十二経脈ともいい、全て臓腑に属す経脈です。
肺に属す経脈は「肺経」、大腸に属す経脈は「大腸経」といいます。
また、十二経脈はそれぞれの経脈上に、固有のツボ=経穴を持っています。
列欠という経穴は肺経上にあり、合谷という経穴は大腸経上にあり、それぞれの経脈固有の経穴です。
電車で例えるなら、十二経脈は路線、経穴は駅、臓腑は運営会社、経脈を流れる気血は乗客です。
路線には専用の駅があり、運営会社があり、乗客を乗せて運びます。
路線を利用して乗客が移動するように、気血は経絡を流れ全身に分布します。
もし、乗客が少なくなってしまったり(虚といいます)、悪い乗客(邪気)が乗客として入ってきてしまうと、運営会社である臓腑に影響を及ぼし身体に不調が生じます。
乗客を増やしたり、悪い乗客を捕まえて追い出す時は、経穴という駅を使って鍼灸師は治療を行います。
鍼灸は乗客(気血)の調整がとても得意です。
ちなみに、乗客(気血)を増やすのは、漢方薬が得意です。

十二経脈をさらに分類
十二経脈は大きく2つに分けられます。
六臓(五臓+心包)が運営する「陰経」と、六腑が運営する「陽経」です。
※なぜ六臓が陰で、六腑が陽なのは中医基礎理論の陰陽学説で学びます。
陰経と陽経はさらに「手足のどちらを流れているか」で「手の三陰経」と「手の三陽経」、「足の三陰経」と「足の三陽経」に分けられます。
例えば、肺経は手を走行しているので、手の三陰経に属し、胃経は足を走行しているので足の三陽経に属します。
※「手の三陰経」と「手の三陽経」、「足の三陰経」と「足の三陽経」の臓腑は、それぞれ表裏関係になっています。

十二経脈の流れ
「手の三陰経」は胸腹部から手の指先へ走行します。
「手の三陽経」は手の指先から頭面部へ走行します。
「足の三陽経」頭面部から足の指先へ走行します。
「足の三陰経」足の先から胸腹部へ走行します。
それぞれ三つの経脈が属すので、十二経脈の始まりから終わりまで気血が流れると、身体を合計3周することになります。
十二経脈の流れは肺経からスタートし、肝経まで進み、またスタートの肺経へ戻ります。
この様に、十二経脈は山手線の様に一つの大きな循環構造を持っていて、これを「大周天」といいます。
この大周天を通り、気血は絶え間なく全身を循環します。

奇経八脈
奇経八脈は「任脈・督脈・帯脈・衝脈・陽蹻脈・陰蹻脈・陽維脈・陰維脈」という8本経脈の総称で、「奇妙なハ本の経脈」という意味です。
先程紹介した十二経脈は走行や配列に一定の規律がありますが、奇経八脈はその規律が通じません。
詳しくは中医基礎理論で紹介しますので、ここでは簡単に奇経八脈をみていきましょう。
督脈と任脈は固有の経穴を持つ
奇経八脈の「任脈」と「督脈」は十二経脈と同じ様に、固有の経穴を持っています。
※自分特有の経穴を持つ十二経脈と督脈・任脈を合わせて「十四経」といいます。
また、十二経脈の様に任脈と督脈で「小周天」という小さな循環構造を持っています。
残りの六脈は経穴を借りている
残りの6本は固有の経穴を持っていません。
十二経脈の経穴を共有して走行するという特徴を持っています。
路線はあるけど、駅は他の路線の駅と共有しているというチョット奇妙な経脈なのです。
しかし、駅を共有しているということは、経脈をまたいで移動できるというメリットがあります。
同時にそれは、別々の十二経脈の結びつきを強化するというメリットも生みます。
奇妙な経脈ですが、上手に使えばとても有用な経脈なんです。

奇妙な特徴は他にも、「帯脈だけは横に走行する」、「奇経八脈(帯脈を除く)の走行は全て下から上へ向かう」、「奇経八脈全体での循環構造はない」など、十二経脈の規律が通じない特徴が奇経八脈にはあります。
何とも不思議な奇経八脈ですが、臨床ではとても武器になり、鍼治療が上手な先生は奇経の使い方が上手です。
ぜひみなさんもマスターしてください。
最後に
経脈には他にも「十二経別」があり、絡脈も「十五別絡」、「孫絡」、「浮絡」があります。
十五別絡は絡穴という重要な経穴(要穴)と関係があるので、次回、要穴を学ぶ際にご紹介します。
「十二経別」、「孫絡」、「浮絡」は経穴を持たないので、経絡腧穴学では扱いません。
これらは中医基礎理論の中でご紹介します。
奇経八脈の働きも中医基礎理論の中で詳しく紹介しますので、楽しみにしていてください。