【中薬を故事で学ぶ】 三七の故事 〜義兄弟の誓い〜

中薬の故事

昔々、二人の青年が義兄弟の契りを結びました。

彼らは天に「幸福も苦難も共に分かち合う」と誓いました。

彼らは互いを気にかけ、一方が困っている時は、もう一方が必ず助けていました。

ある日、義弟が突然病気になりました。

口から血を吐き、鼻からも血が流れ、便と尿にも血が混ざるようになりました。

そして、たった数日で彼の顔色は黄ばんで、血色もなくなりました。

これを知った義兄は、自宅の裏庭から薬草を採取し、煎じて義弟に飲ませました。

義弟が数回それを飲むと、出血が止まり、病気も治ったのです。

義弟は非常に驚き、感謝の気持ちでいっぱいになりました。

「義兄さんは、いったい何の薬で私を救ってくれたのですか?」

「我が家に代々伝わる止血の薬草だ」

「今度、見せてもらえますか?」

「もちろんだ。私の家の裏庭に生えているから、体力が回復したら見に来るといい」

数日後、義弟は体力が回復したので、さっそく義兄の家を訪れました。

義兄は義弟を裏庭に連れて行きました。

そこには枝葉がたくさん生え出た草が生えていて、淡く黄色い小さな花を咲かせていました。

「これがそなたを救った薬草だ」

「止血以外にも効能はありますか?」

「この薬草は血を活性化させる効果がある。、瘀血を散らし、腫れを抑え、痛みを静める効果がある。打撲や崩漏(不正出血)、金瘡(刀や槍などの刃物による切り傷)に効くぞ」

「なるほど! 素晴らしい薬ですね!」

義弟はどうしてもその薬草が欲しくなり、つい嘘をつきました。

「兄さん、出血病を患った人は、三年後に再発すると聞いたことがあります。ぜひ、私に一株くれませんか?」

義兄は快諾しました。

「もちろんだ。苗を持ち帰って栽培すればよい。ただし、他人には決して言うな。欲しくなった奴に盗まれるかもしれないからな。これは貴重な薬草なのだから」

義弟は苗を持ち帰り、自宅の裏庭に植えました。

水と肥料を与え、丁寧に世話をしました。

一年後、その薬草は見事に生い茂りました。

義弟の家の近くには富豪が住んでいました。

ある日、富豪の息子が出血病にかかりました。

どんな薬を飲んでも出血が止まらず、命の危機に陥っていました。

富豪は言いました。

「この病気を治せる者には、銀を50両と、米を100俵やる!」

これを聞いた義弟は、裏庭の薬草を採取し、富豪の息子に煎じて飲ませました。

ところが、何回飲んでも効果がみられず、富豪の息子は血が尽きて亡くなってしまいました。

「そんなばかな……!」

富豪はすぐさま義弟を捕らえました。

「お前が治せると言ったのは、金をだまし取るために嘘だったのか! 県官(県の役人)に突き出してやる!」

県官は訴えを受け、義弟に尋ねました。

「あなたはどこで医学を学んだのだ? どのように薬を煎じたのだ?」

義弟は恐る恐る、自分が同じような出血性の病気を患ったこと、それを義兄が薬草を使って治してくれたことを話しました。

県官は義兄を呼び、尋ねました。

「あなたが彼に渡したのはどんな薬草だ?」

「これです。これは我が家に代々伝わる薬草で、止血に特化した効果を持っています」

義弟は慌てて言いました。

「兄さん、それは偽物です! あなたのせいで大変なことになりました。私は人の命を奪った罪を償う人生を送ることになったのです」

義兄は義弟を見つめて言いました。

「私がお前を騙すわけがないだろう。」

その眼差しは優しくも、悲しみを帯びていました。

「では、なぜ私が使うと血が止まらなかったのですか?」

「お前が採取した薬草は、植えてから1年しか経っていなかっただろう? それでは薬効が無いのだ」

それを聞いた県官は驚いた様子で尋ねました。

「何年であれば止血効果を得られるのだ?」

「3年から7年までの物が、最も強い薬効を持ちます」

義弟はそれを聞いて全てを理解し、自分が浅はかだったことを強く後悔しました。

その後、人々はこの薬草の薬効が、3年から7年までの物が最も効果があるということと、それ以外の物は期待できないできないことを忘れないために、この薬草に「三七」という名前をつけました。

※三七の別名
①田七人参:広西省の田陽、田東で産することから「田」の字が冠される。
②金不換:金に替えられないほど価値が高いという意味。
③山漆:強力な止血作用を漆の接着力にたとえたもの。「止血の神薬」とも言われる。

おしまい


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