【中薬を故事で学ぶ】 白頭翁の故事 〜白髪の精霊〜

中薬の故事

昔々、ある若者が腹痛に苦しんでいました。

あまりの激しい痛みで、全身から冷や汗が吹き出していました。

腹を抱えながら必死に医者を求めて歩きましたが、村の医者は不在で彼を診てくれる人はいませんでした。

若者は仕方なく家に帰ることにしました。

しかし、痛みはどんどん強くなり、ついには動けなくなって地面に倒れ込んでしまいました。

その時、痛みで目の前がボーッとしていた視界の向こうに、杖をついた白髪の老人が歩いてくるのが見えました。

「ここでなぜ寝ているんだい?」

「お腹が痛くて仕方がないんです・・・」

若者は搾り出すように答えました。

「なぜ医者に行かないんだい?」

「医者がいないんです。探したのですが、どこを尋ねても不在だったんです」と、若者はこれまで医者を探してきた経緯を説明しました。

すると老人は「それなら薬でも探せばいい」と言いました。

若者は、内心「そんな簡単に探せるものか!」と思いましたが、今は何でもいいから痛みをどうにかしたかったので、「どこで見つければいいんですか?」と素直に尋ねました。

老人はニヤッと笑いながら言いました。

「ほら、お前のそばに腹痛を治す薬草があるだろう?」

(どこだ?)

若者は辺りを見渡しました。

老人は杖で道端に生えている、果実に白い毛が生えた野草を指しました。

「この植物の根が薬だ。掘り返して煎じなさい。三服飲むだけで痛みは良くなるだろう」

「本当ですか?!」

「私が嘘をついているとでも? これは我が家にだけ伝わる秘伝なのだよ。信じるかどうかは自分で決めるといい。でも、もし信じるのなら、お前が世に広めてくれ」

老人はそう言い終えると、振り向いて去っていきました。

若者はまだ半信半疑でした。

少し時間が経ち、お腹が少し楽になったので、果実に白い毛の生えている野草をいくつか掘って家に持って帰りました。

家に着くと、再びお腹が激しく痛み始めました。

そして、何度も下痢をしたのです。

若者はもはや耐えられなくなり、老人から教わった方法を試してみることにしました。

彼は野草の根を洗って切って煎じ、それを一服飲みました。

しかし、腹痛は治りませんでした。

(あの老人は三回飲めば治ると言っていた。もう二回の辛抱だ……)

若者はそう自分に言い聞かせました。

翌朝になり、もう一服飲みました。

すると、少し腹痛が治った感じがしました。

夜にもう一服しました。

すると、三日目の朝になるころには腹痛がなくなり、下痢も治まったのでした。

若者は非常に喜びました。

「あの老人の言った通りだ!」

その後、近所で多くの人が若者と同じような下痢になりました。

若者は鍬を持って村外れの荒れ地に行き、薬草を掘り出しました。

彼は薬草をかごいっぱいに採取し、病人たちに配り、煎じ方を教えました。

服用すると、病人たちはみるみる良くなりました。

村人たちは若者に尋ねました。

「あんたはどこでこの医術を学んだんだい?」

若者はみんなに老人との出会いや、彼から服用方法を教わった話をしました。

「その老人はどこから来たんだい?」

若者の話に出てくる老人を、村人は誰も見たことがなかったのです。

「それは分からない」

「それは何ていう薬草だい?」

若者は老人から薬草の名前を聞いていなかったことに気が付きました。

(一体これは何という名前の薬草なんだろう?)

若者は村人からの質問に何も答えられませんでした。

数日後、彼は老人と出会った場所に行きました。

もう一度、老人に会って直接お礼を言いたかったのです。

しかし、いくら待っても、いくら探してもその老人を見つけることはできませんでした。

若者はとてもがっかりしました。

その場に座って落胆していると、ふと一本の白い毛が生えている野草が見えました。

風に揺れるその白い毛の草は、まるであの白髪の老人のようでした。

若者はハッとして叫びました。

「ああ! あの老人はこの薬草の精だったんだ! この薬草は必ず後世に伝えなければいけない!」

そして若者は薬草の名前を決めたのです。

「この薬草を『白頭翁』(白髪老人)と名付けよう!」

おしまい


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