かつて、中国に黄姓という医者がいました。
彼の家は代々、五黄薬(黄連、黄芪、黄精、黄芩、黄根の五味の薬草)の採取に長けていて、その五黄薬を用いて病気の治療もしていました。
人々は彼を「五黄」と呼んでいました。
毎年、春の三月になると、五黄は山に入って薬草を採取していました。
山には小さな村がありました。
五黄は薬を採りに行くたびにその村に泊まり、秋が来るまで村にとどまっていました。
五黄が泊まっていた家の主人は大朗といい、五黄は彼と彼の家族と深い友情で結ばれていました。
ある年、五黄が薬草を採りに村に行くと、大朗の家がなくなっていました。
五黄は村の人に大朗はどこにいるのか訪ねました。
「大朗は大きな災難に遭いました。 去年の冬に火事があり、家は焼け落ち、彼の妻も焼死しました。今では彼と子供の二人だけで、山の洞窟に住んでいます」
五黄は非常にショックを受けましたが、大朗に会いに山の洞窟に向かいました。
そして、洞窟にいる大朗親子を見つけたのです。
大朗は五黄を見ると、頭を抱えて泣き崩れました。
五黄は大朗を優しく抱きしめながら言いました。
「何もかも失ったのなら、子供を連れて私と一緒に薬を採取し、売りに行くのはどうだろうか?」
大朗は喜んで五黄に従い、薬草の採り方を教わり販売も手伝いました。
彼らは風に吹かれる楊の花のように四方を巡り、半年も経たないうちに大朗は五黄薬を採る方法を身につけました。
しかし、五黄は彼に医術を教えることはありませんでした。
ある日、大朗は言いました。
「先生、どうして私に医術を教えてくれないのですか?」
五黄は笑って答えました。
「あなたはせっかちなので、医者には向いていません」
大朗は少し不満に感じました。
そこで、五黄が人々を治療する方法をこっそり見て、どの病気にどの薬を使うべきかを覚えようとしました。
日が経つにつれ、大朗もいくつかの治療法を覚えたので、五黄に内緒で病気の治療を始めました。
偶然にも、彼は何人かの病人を治癒させることができたため、大朗は非常に自信を付けてしまったのです。
ある日、五黄がいない時に、一人の妊婦が訪れました。
彼女は体が弱り、骨のように痩せていました。
大朗は尋ねました。
「どうしたのですか?」
「下痢がでるのです」
通常、止泄には黄連が使われますが、大朗は彼女に瀉火通便作用のある黄根を与えてしまいました。
患者は薬を二回飲んだ後、大量の下痢が続き、二日もしないうちに亡くなってしまいました。
大朗が出した処方箋の内容を見た患者の家族は激怒しまし、彼を県官に連行させました。
県の官吏は事情を把握し、大朗が無能な医者であるとして彼の罪を認定しました。
その時でした。
五黄が駆けつけ、庭の前でひざまずいて言いました。
「貴殿は、私に有罪を言い渡すべきです!」
官吏は尋ねました。
「君は何者で、どうして有罪なのか?」
五黄は答えました。
「彼は私の医術を学びました。私の教え方が悪かったのです。だから、罪は私にあります」
大朗は自分自身を恥ずかしく思いました。
「私が彼に背いて勝手に医療行為を行ったのです。彼は関係ありません!」
涙を流しながら官吏に訴えました。
官吏は二人の関係を詳しく尋ねました。
話を聞き、二人の深い友情をに感心しました。
官吏は普段から五黄の名声を聞いていました。
その五黄が信頼している大朗は、決して悪人ではないのだろうと思いました。
当然、一人の人間の命を奪ってしまったので罪は免れませんが、可能な限り大朗の減刑を試みました。
最終的には、官吏は死者の家族に賠償金を支払うように命じ、大朗を釈放しました。
大朗は申し訳なさそうに言いました。
「本当に申し訳ありません。あなたの言うことを守らなければならなかった。これからは絶対に自分勝手なことはしません」
五黄は大朗の背中にそっと手を添えました。
「治療を学ぶときは、決して急いではいけません。間違った薬を使うと命を落とすことがあるのだから」
その後、大朗は真剣に薬を採取するようになり、性格も安定してきました。
五黄はそれを見て、彼に医術を教えるようになりました。
失敗の教訓を忘れないために、また、後世でこの薬が誤用されないように、五黄は黄根の「黄」を、大朗の「大」に変え、「大黄」と改名しました。
おしまい
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