【中薬を故事で学ぶ】 丹参の故事 〜母を救う紫の花〜

中薬の故事

昔々、東の海辺にある小さな漁村に、海明(かいめい)という名の若者が住んでいました。

海明は幼い頃に父を亡くし、母とふたりで慎ましく暮らしていました。

荒波の中で育った彼は水泳が得意で、村の人々から「小蛟龍(しょうこうりゅう)」――小さな龍の化身――と呼ばれていました。

ある年のこと、母が突然、重い病にかかりました。

頻繁に出血があり、何人もの医者に診てもらっても、一向に良くなりません。

そんな中、ひとりの村人が教えてくれました。

「東海にある無名の島に、紫色の花穂と赤い根を持つ薬草が生えている。その根を煮出して飲めば、その病に効くそうだ」

その話を聞いた海明は、希望に胸をふくらませ、すぐに薬草を探しに行く決意をしました。

翌朝、海明は小舟をこぎ出しました。

巧みな操縦で、岩礁や急流を越えていき、やがて無名の島にたどり着きました。

島の中を探し回ると、言われたとおりの薬草――紫の花をつけ、根が鮮やかな赤色をした植物を見つけました。

彼はすぐに根を掘り起こし、大量に採取して村へと持ち帰りました。

戻った海明は、毎日その薬草の煎じ薬を母に飲ませました。

すると、不思議なことに、母の病は日に日に良くなり、やがてすっかり回復したのです。

村人たちは、母を思う海明の一途な気持ちと、その命をかけた行動に深く感動しました。

そして、彼が採ってきたその薬草を「丹心(dan xin:ダンシン)」―― 一途な心、つまり「まごころ」――と名づけたのです。

やがて、その名は語り継がれるうちに、発音の似た「丹参(dan can:ダンツァン)」へと変わり、薬草の名として広まっていきました。

こうして、海明のまごころは、薬草とともに後の世にまで残ることになったのです。

おしまい


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