前回は五輸穴を学びました。
今回は四総穴と八会穴を学んでいきましょう。
四総穴
四総穴とは、「身体を四部分に分けて各部を主治する経穴」です。
四部位とは「腹部・腰背部・顔面部・頭項部」を指します。
《鍼灸大成》には「肚腹三里に留め、腰脊委中に求める。頭項列欠に尋ね、面口合谷に収める。」と、経穴と四部位に対応する経穴が記載されています。
※その後、「酸痛阿是に取り、胸脇内関に謀る。」という内容が加えられています。
四総穴それぞれは、十二経脈を学ぶ時に、所属する経穴として詳しく学びます。
ここでは、学生から質問が多かった「「合谷を使う時の注意点」と列欠がなぜ頭項に効くのか?」をご紹介します。

顔の病に合谷を使うときは、左右に気をつけよう!
顔面部の病には「合谷」を使います。
1つ気をつけなければいけないポイントがあります。
それは、患側と反対の合谷を使うです。
もし、右側の顔面神経麻痺を治療するなら、左側の合谷を使います。
理由は、手陽明大腸経の流注が顔面部で交差して反対側を流れるからです。
美容鍼など、顔全体に対して施術をするのであれば、左右両方の合谷を使いましょう。
頭項の病には列欠を使おう
頭項の病には「列欠」を使います。
頭痛や後頚部の強ばりには、列欠を刺鍼したり、あん摩をしましょう。
なぜ列欠が頭項に効くのか?
列欠は、手太陰肺経にある経穴です。
手太陰肺経は頭や後頚部を通っていないのに、なぜ頭項に効くのでしょうか。
2つの理由が考えられています。
- 列欠は手太陰肺経の絡穴で、大腸経の病気も治すことができるから。
※大腸経の枝は大椎穴で督脈と合わさり頭部へ向かうので、頭項部の病を治療できる。 - 列欠は任脈の八脈交会穴で、任脈は督脈と連絡し頭頂部へ向かうから。
この様に、列欠が頭項に効くのは、「督脈」との繋がりがあるからと考えられます。
四総穴の主治は流注との関わりが大きい
足三里がある胃経は腹部を流れ、委中がある膀胱経は腰背部を流れ、合谷は顔面部を流れます。
列欠はチョット例外ですが、四総穴を決める際に流注を考慮したのは明らかです。
ちなみに、列欠は、「外感病初期の頭痛の治療穴」としてもよく使われます。
外感病の初期とは、風邪の引き始めのことです。
この時の特徴的な症状として、風寒の邪気が侵襲してくる頭項部の頭痛がみられます。
「風邪の頭痛を治す有名なツボだから、列欠が頭項を主治する四総穴になったのではないか」とも考えられますが、真実は分かりません、笑
でも、四総穴に1つだけ陰経の経穴があるのは、何か特別な理由があるような気がしてしまいます。
八会穴
八会穴は8つの経穴の主治特性によって命名された要穴です。
「会」は「集まる」という意味で、腑、臓、筋、髄、血、骨、脈、気のそれぞれの気が集まるところです。
- 臓会 ー 章門
- 骨会 ー 大杼
- 脈会 ー 太淵
- 腑会 ー 中脘
- 血会 ー 膈兪
- 気会 ー 膻中
- 筋会 ー 陽陵泉
- 髄会 ー 懸鍾
八会穴それぞれは、十二経脈を学ぶ時に、所属する経穴として詳しく学びます。
ここでは、簡単に八会穴を紹介します。

章門は五臓の疾患すべてに使える!
章門は「脾の募穴」でもあり、脾が生成した気が集まるところです。
五臓はすべて、脾から栄養を受けて養われることで、正常に機能しているため、この経穴で治療することができます。
脾の運化機能は、肝の疏泄機能によって正常に機能します。
章門が肝経にあるのは、肝と脾が相剋関係という密接な繋がりがあるからです。
大杼は大きな横突起?
大杼が骨会なのは名前に表れています。
杼は紡績機の横糸を伸ばし出す糸巻きのことです。
その形が横突起に似ていることから横突起のことを「杼骨」といいます。
大杼は大きな横突起という意味で、第一胸椎を表します。
また、第一胸椎棘突起のことを「杼骨」ともいいます。
第一胸椎棘突起は首の後ろにある大きく膨らんだ骨です。
その大きさから骨の気が集まる=骨会になったと考えられています。
大杼穴が第一胸椎棘突起の両サイドにあるのは、名前の由来を知れば納得ですね。
脈会はすべての血脈が集まるところ?
脈会の太淵は肺経の輸穴で原穴です。
輸穴で原穴でもあることから、肺の気が集まる経穴であることを意味します。
「肺朝百脈(朝=集まる)」といい、肺は全身の血脈を集める働きがあります。
すべての血液は酸素を受け取るため、必ず肺を通ります。
その様子から、肺が全ての血脈を集めると考えたのでしょう。
集まった血脈は肺経を通って全身を巡ります。
撓骨動脈拍動部は、肺が集めた血脈が一気に通るところです。
そこに位置する太淵は脈気が集まる経穴であることから、脈会とされました。
中脘は胃のど真ん中!
中は「中央」を意味し、脘は元は「管」で「胃の内腔」を表します。
つまり中脘は胃のど真ん中という意味です。
※解剖学的には胃のど真ん中ではありません。
中脘は胃の募穴でもあり、胃の気が集まるところです。
胃は水穀の海であり、脾とともに五臓六腑に栄養を送ります。
また、胃は六腑の機能=飲食物の消化吸収が始まるところです。
六腑の大源(大本)でもあることから、六腑全ての病を治療することができます。
膈兪と血の関係は横隔膜にあり!
膈は「横隔膜」を意味します。
膈兪が血会なのは、心兪と肝兪の間にあるからです。
心は「血脈」を主り、肝は「蔵血」を主ります。
2つの血と関係が深い臓腑が出会うところ(中間)にあるので、膈兪は血会となります。
他にも、横隔膜は深い呼吸には不可欠です。
深い呼吸は、血流を促進します。
その働きからも、膈兪は血会に相応しい経穴といえます。
膻中は肺のど真ん中!
膻中は左右の肺の中間にあり、肺の気が集まるところです。
そのため、肺の募穴でもあります。
肺は全身の気を主り、その肺の気が膻中に集まるので、気会となります。
気の病(流れが悪い、量が少ない)は、膻中で治療することができます。
筋の衰えは膝からくる!
筋会である陽陵泉は膝にあります。
膝の動きを支配する筋肉は大腿四頭筋です。
人間の筋肉の60%は下半身にあり、その中で最も大きな筋肉が大腿四頭筋です。
筋肉が衰えると、真っ先に大腿四頭筋が支配する膝の動きに影響がでます(膝が曲がってきます)。
このため、筋肉の影響が出やすい膝に位置し、筋を主る肝の表裏経である胆経の陽陵泉が筋会となります。
懸鍾が髄会である理由が難しい!
これまでみてきた八会穴は、解剖生理や中医学の臓腑機能の観点から理解しやすい理由だったと思います。
懸鍾が髄会である理由は、少し難しいので、「はぁ、そうですか」くらいの感じで受け止めてください。笑
髄は骨髄で、骨髄を主る腎を表します。会は「交わる」です。髄会は胆経が天部(身体の上部)から下行してきて、地部(身体の下部)に至るところです。
懸鍾に至った後、天部から来た経水は全て寒冷の水気に気化します。
胆経の寒冷の気が集まる所から髄会となりました。
ね?難しいでしょ?笑
髄会の由来は、今後も分かりやすい理由がないか調べていき、分かり次第ご報告します。
最後に
四総穴も八会穴も臨床ではとっても使う要穴です。
血の病に有効な、膈兪と血海と三陰交の使い分けは?
血の病には気会も一緒に使うと、より効果が高まる理由は?
臨床でどの様に使うかは、今後もどんどん学んでいきましょう。
お楽しみに♪
次回は、八脈交会穴を学びましょう。