【中薬を故事で学ぶ】 丁香の故事 〜古代のチューインガム〜

中薬の故事

むかしむかし、唐の時代に宋之問(そうしもん)という名の有名な詩人がいました。

彼はその文才と美しい容貌を武器に、宮廷に仕えており、当時権力を握っていた則天武后(武則天)のもとで、文学侍従として任に就いていました。

宋之問は自分の風采の良さと詩文の才能に大いなる自信を持っており、「自分こそが女帝に重用されるべき人物だ」と信じて疑いませんでした。

ところが――
武則天は、なぜか彼を避けるようなそぶりを見せ続けていたのです。

宋之問は困惑しました。

「私はこれほどの才を持っているのに、なぜ陛下のご寵愛を受けられないのだろうか?」

考えあぐねた彼は、ついに一首の詩をしたためて武則天に献上しました。

ところが、詩を読み終えた武則天は、近くに仕えていた者にこう漏らしたといいます。

「宋卿に特別な過失があるわけではない。ただ――口臭があることを、本人が知らないのだ」

この言葉が宋之問の耳に入ったとき、彼は大いなる羞恥を感じ、顔を赤らめて深く反省しました。

それ以降、宋之問は人と会う前には必ず、香り高い丁香の実を口に含み、口臭を消すよう心がけるようになりました。

やがてこの習慣は宮廷内にも広まり、人々は丁香の芳香とその効果に注目しました。

やがて、「丁香は古代のチューインガム」などと冗談まじりに語られるようになり、口中を清める薬草として親しまれるようになったのです。

おしまい


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