昔、中国のある県の牢獄には、多くの囚人が収監されていました。
彼らを監視する老獄卒(看守)は、とても正直で良心的な人でした。
囚人に暴行を加えたことはなく、彼らと話をして、彼らの生活や苦しみを気にかけていました。
ある日、「白及(びゃくきゅう)」という死刑囚が突然病気になり、危篤状態に陥りました。
老獄卒は急いで県官に報告に行きました。
県官は報告を聞くと、笑いながら言いました。
「白及は1ヶ月後に斬首される予定だ。今死ぬのなら、我々の手間が省けるではないか」
老獄卒は納得がいきませんでした。
(確かに白及は死に値する罪を犯しているが、まだ死ぬ時ではない。病気なら治療すべきだ)
そこで彼は、県官に内緒で郎中(医者)を呼び、牢獄で白及を治療させました。
かかった薬代は、老獄卒が自分のお金で支払いました。
数日後、白及は病気から回復しました。
白及は老獄卒の行為に感動し、感謝の気持ちで胸がいっぱいでした。
時が経ち、白及の処刑日がやってきました。
白及は老獄卒にこう言いました。
「私は重罪を7回犯しました。何度も拷問されて肺に傷を負い、血を吐いていました。でも、私は秘薬を知っていて、その薬で出血を止めて回復していたのです。その方法は、ある植物の白い根だけを粉末にして、米汁で服用するのです。その効果は、神力のようです」
言い終わると、白及は処刑場に向かい、斬首されました。
彼の遺体の胸部を開いてみると、肺には10箇所以上の傷穴がありましたが、全て白い根で作られた薬で塞がっていたのです。
薬の白色も、白いままで変化していませんでした。
老獄卒は、友人の張医師に処方を伝えました。
張医師はこの処方で咳血が止まらない重症患者を治療しました。
結果は非常に良好で、服用した患者は、一日で咳血が止まりました。
ある日、張医師は老獄卒に植物の名前を尋ねました。
老獄卒は年老いて記憶が悪くなっていたため、「白及が教えてくれた処方」と覚えているだけで、植物の名前は忘れていました。
そして「白及」とだけ言いました。
こうして、白い根は「白及」という名前になりました。
後に、植物を表す草冠が付けられ、「白芨」となりました。
おしまい
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