四川省の歴史文化名城・閬中(ろうちゅう)の郊外にある大仏寺のそばの岩壁には、今でも「虎渓(こけい)」という二文字がはっきりと刻まれています。
これは、孫思邈(そんしばく)が虎杖を用いて虎の脚の病を治したという伝説に由来しています。
伝えによると、このあたりはかつて険しい山々に囲まれ、深い森と茂った草原に多くの貴重な薬草が生えていたそうです。
ある日、孫思邈がこの地に薬草を採りに訪れたところ、突然うめき声が聞こえてきました。
彼が急いで山の渓流を越えると、向かいの岩の上に、力なく横たわる白い額の虎が、切なそうな目で彼を見つめていました。
孫思邈が近づいてしゃがむと、虎はゆっくりと脚を持ち上げて彼の膝の上に置きました。
脚は赤く腫れていました。
孫思邈はすぐさま薬袋から薬草を取り出して砕き、山の湧き水で調合して、患部に塗ると同時に、その薬を虎にも飲ませました。
数日後、虎の脚の病はすっかり治ってしまったのです。
それ以来、その虎は孫思邈に付き従うようになり、ついには彼の乗り物となりました。
孫思邈は虎に乗って山を越え川を渡り、まるで平地を歩くかのように薬草採集に出かけたといいます。
孫思邈が虎の病を治したという話はすぐに広まりました。
後世の人々はその功績を称えて、大仏寺に薬王殿(やくおうでん)を建立しました。
そして、虎の脚の病を治したその薬草は「虎杖(こじょう)」と呼ばれるようになりました。
つまり「虎の杖(支え)」という意味で、虎の脚の病を支え助けた薬ということです。
孫思邈が本当に虎杖を用いて虎の脚の病を治したのかどうかは、今となっては確認する術はありませんが、『滇南本草』、『本草綱目』、『日華子本草』など、歴代の有名な本草書には、いずれも虎杖の薬効が記録されています。
中薬においても、虎杖は関節などの疾患を治療する良薬として重宝されているのです。
おしまい
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