【中医基礎理論 第17講】 – 精気学説が中医学に与えた影響 神を添えて –

中医基礎理論

第16講では、「気一元論」に基づく世界の成り立ちについて学びました。

この気一元論は、中医学における理論体系の根幹を支える哲学ですが、中医学の理論が体系化されていった当時、より広く知られていたのは「精気学説」でした。

前回ご紹介したとおり、精気学説は気一元論の原型となった考え方です。

そこで今回は、この精気学説が中医学にどのような影響を与えたのかを、詳しく見ていきたいと思います。

精気学説が中医学に与えた影響

中医学における精気学説は、人体における「精」と「気」の内容、起源、分布、機能、そしてそれらが臓腑・経絡・組織・器官とどのように関係しているかを説明する理論です。

古代中国哲学における精気学説では、精気は宇宙の根源とされており、この思想は中医学にも深い影響を与えました。

中医学が精気学説から受けた大きな影響として、次の二点が挙げられます。

  1. 生命活動が正常であるとは、精気が満ち足りている状態を指すこと
  2. 人体の気機は、協調と通暢が必要であること

※「精気」は、ほとんどの場合「気」とほぼ同義として扱われます。そのため、読み進める際には「精気=気」として理解して差し支えありません。

(一)生命活動が正常であるとは、精気が満ち足りている状態のこと

精気学説では、「この世界は精気によって成り立っている」と考えます。したがって、人間もまた精気によって構成されているとされます。

精気によって構成されている人間が、生命活動を正常に維持するためには、体内に十分な精気が満ちていることが不可欠です。

中医学においては、精気にはいくつかの種類があります。

  1. 先天の精気
  2. 天の清気
  3. 水穀の精気

これら三つの精気は、人間にとって最も重要な気であり、まとめて「三気(さんき)」と呼ばれます。

この三気が結びつき、神(しん)・精・気・血・津液などのさまざまな物質へと気化(変化)することで、生命活動が保たれます。

日常生活において、適切な養生を行い、身体をこの三気で満たしていくことが、健康を守り、長寿を実現するための大切な鍵となります。

それでは、次にこの三気について一つずつ詳しく見ていきましょう。

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現代風に言い換えると、「遺伝子」、「酸素」、「栄養素」です

先天の精気:両親から半分ずつ授かる精気

先天は「生まれつき」という意味です。

「先天」とは、「生まれつき」や「出生前」という意味を持ちます。
したがって、先天の精気とは、胎児のときに母胎の中で授かり、生まれた時にはすでに備わっている精気のことを指します。

この先天の精気は、両親からそれぞれ半分ずつ受け継がれます。
例えるならば、現代でいう「遺伝子」のようなものといえるでしょう。

先天の精気は五臓の中でも特に「腎」に貯蔵され、生きていく中で慎重に、大切に使われていきます。

この先天の精気の量によって、おおよその寿命が決まります。
精気の「持ち分」は人によって異っていて、生まれながらに決まっています。

だから、途中で増やすことはできません。

たとえば、両親から100の精気を授かった人もいれば、50しか授からなかった人もいるというわけです。

この場合、50の人は100の人の半分の寿命となります。

そして、50の人が60とか70になることはないということです。

このように、中医学では「人は生まれた時点で、すでに天寿(天から与えられた寿命)が定まっている」と考えます。

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子供の寿命の長短に、親の影響は大きいのです

生まれた瞬間から、先天の精気は徐々に減っていきます。
しかし、病気や不摂生な生活を送ると、その減り方が早まり、結果として寿命も短くなってしまいます。

本来であれば100歳まで生きられるはずだったのに、不摂生や病によって早く命を終えてしまうのは、非常に惜しいことです。

もちろん、すべての病気が予防できるわけではありませんが、生活習慣病のように予防可能なものについては、日々の心がけで防ぎたいところです。

中医学が大切にしている考え方のひとつに、「生まれ持った天寿を、どのようにしてまっとうするか」があります。

足すことができない先天の精気は、なるべく無駄遣いをせずに「節約する」ことが大切です。

そこで登場するのが、生まれた後から補うことができる精気です。
それが「天の清気」と「水穀の精気」です。

これらの精気をうまく取り入れて、先天の精気の消耗を補いながら、健やかに生きていくことが中医学における養生の要となります。

※先天の精気の詳細については、「気」の記事にてさらに詳しく学びます。

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天寿に近づけるように養生しましょう

天の清気

天の清気とは、大気――つまり自然界の空気に含まれる、清らかな気のことを指します。
イメージとしては、酸素のようなものを思い浮かべるとわかりやすいでしょう。

人は生まれてすぐに呼吸を始めます。
それは、天の清気を吸い込み、体内にたまった不要な気を外へ排出するためです。
この呼吸の過程は「吐古納新(とこのうしん)」といいます。

呼吸が健康にとって非常に重要であることは、みなさんもよくご存じの通りです。
この呼吸によって得られる天の清気は、食事によって得られる「水穀の精気(=穀気)」と結びついて、「宗気(そうき)」という新たな気になります。

宗気は体内でさまざまな働きをしますが、その一つとして、腎に降りていき、先天の精気を補うという重要な役割を担っています。

この補充によって、先天の精気を節約することができるのです。

つまり、呼吸によって天の清気をしっかり取り入れることは、健康を守るだけでなく、寿命を延ばすうえでも大切な養生法なのです。

なお、中医学の試験などでは「天の清気」を、「天の精気」を書き間違えることが多いので、注意が必要です。

※宗気については、「気」の記事にてさらに詳しくご紹介します。

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宗気が働くことも、先天の精気の節約になります

水穀の精気

水穀(すいこく)とは、「飲食物」のことを指します。
したがって、「水穀の精気」とは、飲食物から得られる精気のことです。
なお、水穀の精気は、略して「穀気(こくき)」ともいいます。

人は生まれた後、呼吸だけでは生きていけません。
水分を補給し、食物から栄養を摂取しなければ、生命を維持することはできないのです。

飲食物から得られた水穀の精気は、体内で二つの方向に分かれて活用されます。

一部はそのまま全身を巡って使用され、生命活動のエネルギーとして役立ちます。
この時点で、先天の精気をあまり使わずに済むため、結果として先天の精気の節約につながります。

もう一部は腎へと送られ、先天の精気と一緒に蓄えられます。
必要なときに取り出して使われることで、やはり先天の精気の消耗を抑えることができるのです。

このように、水穀の精気は、生命活動を支える重要な源であり、先天の精気を節約するうえでも大きな役割を果たしています。

日々の食事によって精気をしっかり補うことは、健康と長寿のために欠かせない養生法なのです。
旬のものを取り入れ、適切な量を摂取するという基本を守ることが、精気を養う最も確実な方法であるといえるでしょう。

「天の清気」+「水穀の精気」=「後天の精気」

「天の清気」と「水穀の精気」は、生まれた後に自ら摂取する精気です。
そのため、この二つを合わせて「後天の精気」といいます。
※「後天」とは、「生まれてから後に備わるもの」という意味です。

中医学では、この後天の精気をどれだけしっかり取り入れて活用できるかが、先天の精気の節約につながると考えられています。
つまり、呼吸と食事を通じて得られる後天の精気によって、先天の精気の消耗を抑えることができれば、それだけ寿命を延ばすことが可能になるのです。

呼吸と食事は、自分の意識と努力で整えることができる行為です。
したがって、天から授かった寿命をまっとうできるかどうかは、自分次第といえるでしょう。

このような考え方は、唐代の名医・孫思邈も強調しています。
彼はその著作『養生銘』の中で、「寿夭休論命,修行本在人(寿命の長短は天命ではなく、自分次第である)」と述べています。

つまり、「長生きできるかどうかは、自らの努力と心がけにかかっている」という教えです。

※「水穀の精気」については、別の記事「気とは何か」でより詳しく学びます。
※中医学では、この「三気」以外にも、「元気」「宗気」「営気」「衛気」など、さまざまな分類で気をとらえています。これらについても、今後の「気」に関する記事で詳しく解説していきます。

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飲食物から作るのではなく、取り出すという方が正確です

(二)人体の気機は協調と通暢を要する

「人体には気機(昇降出入)があり、互いに協調し、スムーズに流れていることが重要である」ということを意味します。
※「通暢」とは、「気持ちよく通ること」、すなわち気が滞らずに滑らかに流れている状態を指します。

前回の「気一元論」では、気は常に運動しているということを学びました。
そして、この気の運動のことを「気機」と呼び、その運動方向には、「昇」「降」「出」「入」「聚」「散」の6つがあります。

この中でも、気機の主な運動方向は「昇」と「降」であり、「出入」や「聚散」は「昇降」から派生した動きとされます。
※一般的に「気機」といった場合には、主に「昇」「降」「出」「入」の4方向を指すことが多いです。

気が常に運動しているからこそ、自然界は秩序をもって機能しており、人間の身体もまた同様です。
人体においても、気機が正常であれば、生命活動が正しく維持されます。

気機が正常に働いていれば、体内での気化(=変化)が正しく行われます。
この気化とは、生・長・壮・老・死といった一連の生命の流れのことであり、自然な変化が順調に進むことを意味します。

臓腑の気機

臓腑の機能にも、気機は深く関わっています。
実は、五臓にはそれぞれ得意とする気の運動方向があるのです。

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昇と降の絶妙なバランス

主な運動方向は、肝・脾・腎が「昇」、心・肺・胃が「降」とされます。
※ここでの分類は、臓腑の気機を主な運動方向で分けたものであり、出入や聚散の動きがないというわけではありません。

ちなみに、六腑である胃が含まれているのは、胃が特別な役割を担っており、脾と常にセットで働くからです。
そのため、「脾胃」という表現で一緒くたで言われることが多いです。

胃が特別である理由は、飲食物の消化・吸収において非常に重要な臓腑であるためです。
この点については、「臓腑学説」で詳しくご説明します。

このように、肝・脾・腎は昇、心・肺・胃は降というように、五臓の気機はバランスよく昇降に分かれています。
昇降のバランスが保たれることで、臓腑の機能は正常に発揮され、全身に気が滞りなく流れていくのです。

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正常な気機は健康の大前提です

もし五臓の機能が失調すれば、気機が乱れ、身体にはさまざまな不調が生じます。

たとえば、胃を例にとってみましょう。

胃の気機の運動方向は「降」です。これは、口から入った飲食物が胃に到達したあと、胃の働きによって小腸、大腸を経て、最終的に肛門へと下方に送るられるからです。この下方向への働きは「通降」または「降濁」といわれます。

ところが、暴飲暴食などで胃に負担をかけてしまった場合、胃の機能が低下してしまいます。その結果、胃の気機が失調し、本来は下に降りるはずの気が降りなくなります。

気がうまく降りないと、飲食物が胃の中に停滞してしまい、お腹の張りや痛みが起こります。

さらに、胃の気が降りない状態が続いたり、過度の負担が急激にかかったりすると、今度は胃の気が逆に上昇してしまいます。これを「気逆(きぎゃく)」といい、胃におけるものは「胃気上逆(いきじょうぎゃく)」と呼ばれます。

たくさん食べて胃がもたれたとき、ゲップが出ることはありませんか? さらに、胃の不快感が強いと吐き気を覚え、ひどいときには嘔吐することもあります。これらは、まさに気逆によって胃の気が上に昇ってしまった結果なのです。

本来、下に降りるべきだった飲食物が、気の逆行によって上から出てしまうのです。

※中医学では「ゲップ」のことを「噯気(あいき)」といいます。

次に、脾の場合をみてみましょう。

脾の気機の運動方向は「昇」です。

では、もし脾の機能が弱ってしまった場合はどうなるでしょうか?

本来は昇るべき気が、うまく昇れずに下へと降りてしまいます。

このような気機の失調によって、「下痢」などの症状が現れるのです。

続いて、肺をみてみましょう。

肺の気も本来は「降」方向に働く性質を持っています。もし肺の機能が低下すれば、やはり気機が乱れ、本来降りるべき気が逆に昇ってしまいます。

その結果、「咳」という症状が生じます。

このように、各臓腑はそれぞれに特有の気機の運動方向を持っており、それが失調すると対応する症状が現れます。

気機という概念は、中医学における臓腑の機能を説明するうえで極めて重要です。

気機を臓腑の活動の前提として捉えることで、五臓六腑の働きと病理の変化を体系的に理解することができるようになりました。

臨床においても、気機の理解は不可欠です。各臓腑がメインとする気機の運動方向を、しっかりと覚えておくことが大切です。

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臓腑の気機を覚えれば、症状が分かります

ここまで、精気学説が中医学に与えた影響について学んできました。

最後に、もう一つ重要な内容をご紹介します。

それは、精気から「化生」されるものの中に含まれる、「神(しん)」についてです。

中医学では、「神」は「精気」と並んで、人体にとって極めて重要な存在であると考えられています。

この「神」の概念は、中医学の理論体系に大きな影響を与えており、精気と深く結びついた存在です。

中医学を学ぶうえでは、「神」とは何か、そして「精・気・神」がどのような関係にあるのかを理解することが、とても大切です。

この章では、「神」の意味と役割、さらに「精」「気」との関係について詳しくみていきましょう。

哲学における「神」

精気学説によれば、「精気とは宇宙万物の根本であり、万物が運動し変化するための原動力となる物質である」と考えられています。

これに対して「神」とは、精気から化生されたものであり、万物において起こる神秘的で予測不可能な変化や現象を表す概念です。

たとえば、《荀子・天論》には次のように記されています。

「列星随旋,日月逓炤,四时代御,陰陽大化,風雨博施,万物各得其和以生,各得其養以成,不見其事,而見其功,夫是之謂神。」

これは、「星々は規則に従って回り、日と月は交互に輝き、四季は順に巡り、陰陽は大きく変化し、風や雨は広く行き渡る。万物はそれぞれに適した和を得て生まれ、それぞれの養いを得て成長する。それらの働きそのものを見ることはできないが、その結果は確かに目に見える。それこそが『神』である」といった意味です。

つまり、「神」とは、私たちが目で見ることはできないけれど、そのはたらきによって世界が秩序立って動いている――現象全体を指しているのです。

このように、星や日月の動き、四季の変化、風雨のめぐみといった、自然界における知らず知らずのうちに起こる変化を「神」と呼びます。

神とは、宇宙万物の運動と変化に対する人間の認識であり、この考え方は中医学にも深く浸透しました。

中医学における「神」の概念やそれに関連する理論も、まさにこの哲学的な理解を土台として形成されてきたのです。

中医学における「神」

中医学における「神」には、広義の意味と狭義の意味があります。それぞれの意味について、順に見ていきましょう。

広義の「神」:生命状態の外部表現

広義の「神」とは、「生命状態を反映する外部の表現」のことを指します。

たとえば、誰かを見たときに「今日は元気があるなぁ」とか、あるいは「ちょっと元気がなさそうだな」と感じることはありませんか?
その「元気・元気でない」は、どこを見て判断しているのでしょうか。

おそらく、元気な人は目が生き生きしていたり、言葉がはっきりしていたり、動作がきびきびしていたりと、全体の雰囲気から「生命力」を感じ取っているのではないでしょうか。

中医学では、そうした外に表れる生命力のことを「神」と呼びます。

神は誰もが普段から感じとっているものなのです。

次の画像を見てください。

健康な人の肌、そして目の写真は何番でしょう?

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普段から、みんな「神」を感じているのです

正解は①です。

きっとみなさん正解したと思います。

①の肌はハリがありキメが細かく、①の目は綺麗で、言葉ではうまく説明できない力強さというか生命力を感じます(表現は個々で異なるかもしれませんが……)。

②と③は肌の状態も悪く、目もくすんでいたり、焦点も合ってなく、どこか不調を持っている感じがします。

言葉で説明しなくても、「雰囲気」で①が健康=生命力があると感じられると思います。

このように、顔や目の表情、声の張り、仕草、皮膚の艶などを総合的に見て生命力を判断する方法を、中医学では「望神(ぼうしん)」と呼びます。

「望神」と聞くと、特別な技術が必要な診断法のように思えるかもしれませんが、実はそうではありません。

「今日はあの人、少し元気がないな」「いつもより声が小さい気がする」といった、日常生活の中で自然と感じている観察力こそが、「望神」の基本です。特別な訓練を受けなくても、すでに誰もがある程度は身につけている感覚だといえます。

とりわけ「神」が最もよく現れるのは「目」だといわれています。

「目がイキイキしている」「死んだ目をしている」「目が燃えている」などの表現があるように、目はその人の生命力や精神状態を強く反映します。

そのため、中医学ではまず患者の「目」を見て、「神」があるかどうかを確認します。

目に「神」が見える場合は予後が良好であることが多く、逆に「神」が見られない場合は予後不良であると考えます。

まさに「目は口ほどにものを言う」ということわざのとおりですね。

狭義の「神」:精神・意識・思考・感情

一方で、狭義の「神」は、精神・意識・思考・感情といった「内面的な心理活動」を指します。

これは現代でいう「心」や「メンタル」に相当します。

《素問・霊蘭秘典論》には「心者,君主之官,神明出焉(心は君主の官であり、神明はここから出る)」とあり、五臓のうち「心」が「神」を主っているとされています。

心は全身を統括する「君主」のような存在であり、そこから精神活動すなわち「神明」が生まれるという考えです。

狭義の「神」は、意識や思考、感情などを生み出す精神機能そのものであり、広義の「神」とあわせて、中医学においてきわめて重要な位置を占めています。

人体の三宝

精・気・神は、それぞれ異なる働きを担いながらも、互いに密接に関係し合い、生命活動を支えています。

その重要性から、中医学ではこの三つを「人体の三宝」と総称しています。まさに人にとっての宝物といえる存在です。

精・気・神の関係性

精・気・神の三つは、それぞれ独立して存在しているわけではありません。

まず、「精」と「気」の関係についてですが、これは代謝の観点から見ると、ちょうど「合成」と「分解」のように逆方向の働きを持つ関係です。

無形の気が凝集して有形の精となる、つまり「気が精を生じる」という考え方があります。
《脾胃論》にも「精は気の子、……積気は精を成す」と記されています。

一方で、精が形成されたのちに再び気へと転化するという逆の方向性もあり、《類経》には「精は気を生じる」とあります。

このように、精と気はお互いを生み出し合う関係にあり、気は精をその「体」とし、精は気をその「用(働き)」としています。
この相互転化は、有形と無形が相補いながら変化し続ける生命の本質を示しています。

そして、精と気の相互作用によって心理活動、すなわち「神(狭義の神)」が生まれます。
この神が外に現れることで、私たちの感情や思考、精神状態、さらには身体の状態などが明らかになります(広義の神)。

つまり、「神」は精と気から派生し、精と気は神の物質的な基盤となるのです。

神が精気を機能させる

《類経・巻一》には、「神は精気から生じるが、精気を統御し運用する主は心の神である」と記されています。

つまり、神は精気によって生まれますが、その精気を動かし機能させる力そのものが、神の働きというわけです。

これをさらに具体的に示しているのが、《養生三要・存神》の次の言葉です。

「聚精在于養気,養気在于存神。神之于気,猶母之于子也,故神凝則気聚,神散即気消。」

これは、「精を集めるにはまず気を養い、気を養うには神を保たなければならない。神は気にとって母のような存在であり、神がしっかりと集中していれば気も集まり、神が乱れれば気も消散してしまう」という意味です。

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神がなければ機能しない

また、汪綺石の《理虚元鑑》では次のように述べられています。

「以先天生成之体質論,則精生気,気生神;以後天運用之主宰論,則神役気,気役精。精気神養生家謂之三宝,治之原不相離。」

これは、「先天的な体質という観点から見れば、精が気を生じ、気が神を生じる。一方で、後天的な運用の視点では、神が気を働かせ、気が精を動かす。精・気・神は、養生において三つの宝とされ、治療においてもこれらを切り離すことはできない」という意味です。

このように、精・気・神が有機的に結びつき、調和を保つことで、人の生命活動は秩序正しく安定した状態に維持されるのです。

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みんなが持っている「宝物」

これまで、精気学説と、そこから派生する「神」の概念が中医学に与えた影響について学びました。

「人体を構成する基本物質」の章で「精・気・神」の各項目を学んでいくと、それぞれの内容をさらに詳しく理解することができます。どうぞそちらもあわせてご覧ください。

まとめ:精・気・神の働きについて

ここまで、中医学における「精・気・神」の関係とそれぞれの働きについて学んできました。以下にその要点を整理します。

精とは、自然界に存在するすべての「気」の中でも、特に精華とされる部分を指します。
人体を構成する重要な成分の一つであり、とくに腎に蓄えられた「腎精」は、成長や発育、生殖、老化に深く関わっています。

気は、万物の根源となる存在です。
休むことなく常に運動している極めて微細な物質であり、人体においては生命活動の基本的な物質とされています。
気の運動(気機)は、昇降・出入といった方向性を持ち、生命の秩序を維持する上で欠かせません。

神とは、自然界における運動や変化の表現、そしてそれを司る法則を意味します。
人体においては、生命活動を主宰する中心的存在であり、精神・意識・思考といった心理活動も含まれます。
さらに、神は「目の輝き」や「言動の活力」といった外に現れる生命力としても捉えられます。


以上のように、精・気・神はそれぞれ異なる性質と役割を持ちながらも、互いに深く結びつき、生命活動を支える「三宝」として中医学では非常に重視されています。

次回からは、「陰陽学説」について学んでいきます。
陰と陽という、万物を二つの側面に分けて捉える基本的な理論を通して、中医学の世界観をさらに深めていきましょう。

〜 中医学は中医基礎理論で始まり、中医基礎理論で終わる 〜


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