【中医基礎理論 第20講】 – 陰陽学説 陰陽交感 –

中医基礎理論

前回の記事では、陰陽という概念がどのようにして形成され、そしてその分類にはどのようなルールがあるのかをご紹介しました。

陰と陽という二つの対立した概念が生まれたことによって、私たちは自然界のさまざまな現象を、より体系的に、そして法則的に理解できるようになりました。

さて、今回からは、陰と陽がどのような相互関係を持っているのかについて学んでいきます。

陰陽の相互関係には、全部で五つの基本法則があります。

  1. 陰陽交感
  2. 陰陽対立
  3. 陰陽互根
  4. 陰陽消長
  5. 陰陽転化

これらは、陰陽学説をより深く理解するために欠かせない重要なポイントです。

それでは今回は、この中から最初の「陰陽交感」について、詳しく学んでいきましょう。

陰陽交感

陰陽の相互関係、1つめの法則は「陰陽交感」です。

交感とは、「相互に感応し融合すること」を意味します。

つまり、陰陽交感とは、陰と陽が運動しながら相互に影響し合い交わる現象を指します。

陰陽が交じり合い、相互に作用し合うことは、宇宙に存在するすべてのものの生成と変化の基礎となります。

古典を参考に、いくつか例をみていきましょう。

《周易・咸象》には「天地感而万物化生。(天地が感応し、万物が生じる。)」、《素問・天元記大論》には「陰陽相錯,而変由生。(陰陽が交錯し、変化が生じる。)」と記されていて、全ては陰と陽が交わることで生じとしています。

交わって後、《素問・陰陽応象大論》に「清陽為天,濁陰為地(清陽は天となり、濁陰は地となる)」 と記されているように、陽気は上昇して天を形成し、陰気は凝聚して地を形成します。その後、天の気が下降し、地の気が上昇することで、天地陰陽の気が交感し万物が生まれます。
*詳しい内容は「陰陽互根」で紹介します。

人の生成について、《易伝・系辞下》では「天地氤氲(いんうん),万物化醇;男女構精,万物化生。(天地の気が盛んなれば、万物が生まれる。男女の精が結びつくと、万物が生まれる。)」と、天地陰陽の気の交感、そして男女の結びつきにより生じると述べています。
*化醇(かじゅん):発酵して純粋な酒ができるように変化して形を為すこと。

人間も自然の一部なので、万物と同じ様に天地陰陽の気が交感することで生まれます。《素問・宝命全形論》には「天地合気,命之曰人。(天地の気が結びつき、それを人と命名する。)」 と記されています。

万物が生じれば、その後は成長、発展していきます。これは、《荀子・礼論》に、「天地合而万物生,陰陽接而変化起(天地が結合して万物が生まれ、陰陽が交わると変化が始まる)」とあるように、自然界では、陰陽が絶えず交感し万物が生まれ、その相互作用によって全ての生物が成長して繁栄するのです。

反対に、陰陽交感がなければ自然界には何も存在できません。

陰陽が交感しない状態を「陰陽離決」といいます。

これは臨床において極めて危険な状態です(ほぼ死にます)。

精気学説を陰陽学説で考える

精気学説では、万物は「天気」と「地気」が融合して生まれると考えます。

人も例外ではありません。

人は、天の気と地の気とが調和することで誕生するとされています。

この「天」「人」「地」の三者関係によって世界を理解する思想を「天人地三才理論」といいます。

それでは、ここに陰陽学説の視点を加えて考えてみましょう。

陰陽学説において、天は「陽」に属し、地は「陰」に属します。

陰陽学説では、天の「陽」と地の「陰」が相互に感応し、交感することによって万物が生まれると考えます。

このとき、人もまた、天の陽気と地の陰気が交感することによって誕生するのです。

つまり、精気学説が説く「天気と地気の融合による人の誕生」という考え方と、陰陽学説が説く「陰陽交感による万物の生成」という考え方は、本質的には非常に似通っているのです。

表現こそ違いますが、どちらも「天地の気が合わさることで生命が生まれる」という点で一致しています。

これから先、陰陽学説、さらにその後の五行学説を学んでいく中で、このように異なる学説同士が、さまざまなポイントで融合していく場面がたびたび登場します。

学びが進むにつれ、「すべての理論が有機的に繋がっているんだなぁ」という感覚が自然と湧いてくるでしょう。

こうした「整体観念(全体を一つのつながったものとして捉える考え方)」は、中医学を学ぶ上でとても重要な視点です。

ぜひその感覚を楽しみながら、引き続き学習を深めてください。

なお、今回学んだ「陰陽交感」は、これから学ぶ陰陽学説の他の4つの法則が成立するための基礎となる、極めて重要な法則です。

陰陽交感がなければ、対立、互根、消長、転化といった他のすべての陰陽法則は成り立ちません。

その意味でも、今回学んだ内容は今後の学びにおいて大きな土台となるものです。

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二つの学説は融合できる

まとめ

今回は「陰陽交感」について学びました。

押さえておきたいポイントは、たったひとつです。

それは、

「陰陽が交わることで、すべては生まれる(始まる)」

ということです。

陰と陽が互いに感応し、交わり、影響し合うことで、天地万物、そして私たち人間を含むすべての生命や現象が生まれてきます。

反対に、陰陽が交わらなくなる状態、つまり「陰陽離決」とは、すべての終わりを意味します。

陰陽交感は、非常にシンプルな理論ですが、中医学において最も重要で、すべての陰陽法則の出発点となる基本原則です。

この考え方は、今後学んでいく他の陰陽法則すべてに関わってきますので、ぜひしっかり理解しておいてください。

次回は、陰陽の相互関係の二つ目の法則、「陰陽対立」について学んでいきます。


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